新株予約権の評価方法

新株予約権、ストックオプションの実務 | 2017年8月9日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【新株予約権、ストックオプションの実務】第8回目をお届けいたします。

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1.はじめに

ここでは、新株予約権の評価方法について解説します。新株予約権の評価については、ストック・オプション等に関する会計基準(企業会計基準第8号、以下、「会計基準」)及びストック・オプション等に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第11号、以下、「適用指針」)に定められており、当該株式が公開されている場合と未公開の場合で大きな違いがあります。

 

2.公開企業における評価方法

ここでいう公開企業は株式が証券取引所に上場している企業のことをいい、海外の証券取引市場及び店頭市場を含みますが(会計基準2項(14))、グリーン・シート企業は除かれます。

 

 

① 評価単価の算定

 

ストック・オプションの公正な評価額とは、一般に、市場において形成されている取引価格、気配値又は指標その他の相場に基づく価額とされていますが、市場価格が存在しない場合でも、当該ストック・オプションの原資産である自社の株式の市場価格に基づき、合理的に算定された価額を入手できるときには、その合理的に算定された価額は公正な評価額と認められます(会計基準2項(12))。

 

ストック・オプションは通常、譲渡が禁止又は制限されており、それ自体が市場において売買されるものではないため、株式オプションの合理的な価格算定のために広く受け入れられている、株式オプション価格算定モデル等の算定技法を利用して、公正な評価単価を見積ることになります(会計基準48項)。

 

 

② 株式オプション価格算定モデル

 

基準で言及されている株式オプション価格算定モデルとは、ストック・オプションの市場取引において、一定の能力を有する独立第三者間で自発的に形成されると考えられる合理的な価格を見積るためのモデルであり、市場関係者の間で広く受け入れられているものをいいます(会計基準48項)。

 

使用されるモデルは、こうした将来の株価の変動が、離散した一定間隔の時点において生じると仮定する離散時間型モデルと、常時連続的に生じると仮定する連続時間型モデルに大別されます(適用指針37項)。

 

 

【株式オプション価格算定モデルの種類】

種類 将来の株価の変動
離散時間型モデル 離散した一定間隔の時点において一定の確率に基づいて生じると仮定する方法 二項モデル(1期間後の株価が一定の確率に基づいて上昇するか下落するかの2つのケースのみを想定するモデル)
連続時間型モデル 変動は常時連続的に生じると仮定する方法 ブラック・ショールズ式

 

 

一般的にはブラック・ショールズ式や二項モデル等が使われますが、それらは、市場で取引される通常の株式オプションの価格を算定するために開発されたものであり、ストック・オプションの算定に当たっては、付与するストック・オプションの特性や条件等を適切に反映するように、必要に応じて調整を加えることが求められます(適用指針38項)。

 

 

ストック・オプションの譲渡が禁止又は制限されているという特性を算定技法に反映するには、連続時間型モデルでは、オプションまでの満期までの期間に代えて、算定時点から権利行使されると見込まれる平均的な時期までの期間(予想残存期間)を用います。

 

 

また、離散時間型モデルでは、算定時点からオプションの満期までの期間全体の株価変動を想定したうえで、株価が一定率以上に上昇した時点で権利行使が行われるなど、従業員等の権利行使等に関する行動傾向を想定することで反映します(適用指針7項)。

 

 

株価変動性(ボラティリティ)を見積る際は過去の株価実績に基づく予測(ヒストリカル・ボラティリティ)を基礎としつつ、①株価情報収集期間、②価格観察の頻度、③異常情報、④企業をめぐる状況の不連続的変化等の要因を考慮します(適用指針10項)。

 

 

また、ストック・オプションの発行時点や状況により、適切な評価方法は変わることが見込まれることから、異なる特性を有するストック・オプションを付与した場合や、新たにより優れた算定技法が開発されこれを用いることで、より信頼性の高い算定が可能となる等、合理的な理由があれば、評価方法を変更することは認められます(適用指針8項)。

 

 

③ 公開直後の企業

 

公開直後の企業は株式の取引実績が少ないケースがあり、この場合に株式の市場価格を基礎としてストック・オプションの評価を行うことが適切であるかどうかが議論になります。このため、2年分の株価情報を十分に収集できる場合は、それらの情報に基づき、適切に株価変動制を見積もることができるものと推定しますが、該当しない場合は、類似の株式オプションの市場価格や企業に関する株価変動性をもとに算定するとされています(適用指針12項)。

 

 

3.未公開企業における評価方法

 

① 公正な評価単価

 

未公開企業では評価単価の計算基礎となる自社の株価情報を市場で得ることが不可能です。このため信頼性をもって見積ることが困難な場合が多いと考えられますが、一方で未公開企業には一般的投資家がいないため、既存の株主保護の必要性は、公開企業ほど強くはないともいえます。

 

 

このため、公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことができるとされています。この単位当たりの本源的価値とは算定時点においてストック・オプションが権利行使されると仮定した場合の単位当たりの価値であり、当該時点におけるストック・オプションの原資産である自社の株式額と行使価格の差額をいうとされています(会計基準13項)。

 

 

【ストック・オプションの本源的価値】

 ストック・オプションの本源的価値=自社株式の評価額-行使価格

 

 

しかしながら、ストック・オプションは従業員等にインセンティブを与える趣旨で付与されることから、一般的に行使価格は付与日の自社株式の評価額より高く設定されるものと考えられ、算定式場はマイナスとなりますが、マイナスの価値が存在しえないことから、多くの場合、付与日の本源的価値はゼロとなります。

 

 

② 本源的価値の見直し

 

上記のように、多くの場合、付与日の本源的価値はゼロとなりますが、付与日以後の付与日以後の企業の業績次第で自社株式の評価額が変動することにより、単位当たりの本源的価値も変動することになります。

 

 

このため、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の算定を行う場合、各会計期間末の本源的価値の合計額及び各会計期間中に権利行使されたストック・オプションの権利行使日における本源的価値の合計額を注記するものとされています(会計基準16項(5))。

 

 

4.まとめ

 

ストック・オプションの評価に際しては、適切な算定方法を選択することはもちろん、選択した方法が適切であることを説明すること及び付与日後も適時に評価額を把握することが求められます。

 

 

では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

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第1回 新株予約権って何?ストックオプションって何?
第2回 新株予約権を導入する意義(メリット・デメリット)
第3回 新株予約権を発行する際の会社法上の手続きの留意点
第4回 新株予約権を発行する際の金商法上の手続きの留意点
第5回 ストックオプションに関する解説
第6回 新株予約権の税務上の留意点
第7回 新株予約権の会計処理
第8回 新株予約権の評価方法(今回)

 

 

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