予測期間とターミナルバリュー(継続価値)、割引率の採用タイミング

株価算定(株価評価)-DCF法の実務 | 2020年1月6日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【株価算定(株価評価)-DCF法の実務】第7回目をお届けいたします。

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1.今回の概要

 

DCF法は将来獲得するフリー・キャッシュ・フローの割引現在価値を算定する手法です。ここで、企業はずっと継続運営されることを前提しているため(ゴーイングコンサーン)、将来獲得するフリー・キャッシュ・フローは本来的には永久期間分算定する必要があります。

 

 

とはいえ、来年のことすら確かでない状況下、永久的な将来のことなんて分かるはずもありません。

 

 

そこで、DCF法では予測可能な一定の期間までフリー・キャッシュ・フローを算定した後は、一定の仮定の下、当該予測期間の最終年度のフリー・キャッシュ・フローが一定割合で増える(ないし、減る、変わらない)ということにして、一定期間経過後の価値を一義的に算定します。

 

 

今回はこの「予測可能な一定の期間」をどれくらいとして設定すべきか、そして「一定期間経過後の価値(ターミナルバリューといいます)」はどうやって算定すべきかについてのお話しとなります。

 

 

そして、DCF法ではフリー・キャッシュ・フローを割引計算する必要がありますが、予測可能な期間のフリー・キャッシュ・フロー及び、一定期間経過後の価値をどのように割り引くかについて、割引率の具体的な採用タイミングについても触れたいと思います。

 

 

※ DCF法については第3回をご参照下さい
※ フリー・キャッシュ・フローの算定方法については第4回をご参照下さい
※ 割引率の算定方法については第5回、第6回をご参照下さい

 

2.採用するフリー・キャッシュ・フローの予測期間について

 

結論的に、実務では予測期間は3年から5年を用いることが多いように思います。これは、予測期間が会社が作成する事業計画の期間に依存するためであり、会社は長くて5年程度までの計画を作成することが多いからです。

 

 

なお、予測期間は長ければ長いほど良いわけではありません。あくまで長期視点で業績が安定すると考えられるまでの期間であって、かつ、合理的なフリー・キャッシュ・フローの予測が可能な期間とすべきでしょう。

 

 

実務においては、会社が作成した事業計画より予測期間を短く設定することも長く設定することもあります。

 

 

基本的に会社の計画を採用するのですが、例えば、遠い将来において急激な成長を描くような計画である場合、当該期間の信ぴょう性が薄いのでカットしたり(予測期間を短縮)、あるいは計画期間内の利益では繰越欠損金の解消が完了せず、当該解消まで最終年度の計画を横ばいで引き延ばす(予測期間を延長)などをします。

 

 

予測期間を長く設定する場合は、上記のような明らかな事情がある場合に限りますので、特段問題になりにくいです。

 

 

一方、短くする場合には、評価者は、依頼者である会社サイドと協議の上、慎重な対応が必要となります。会社担当者は自信と根拠があって計画を作成している場合が多く、それを無下に否定するような対応は慎みましょう。

 

 

どうしても会社の計画に納得いかない場合は、レポートにうまくコメントを残すとよいでしょう。

 

3.ターミナルバリュー(継続価値)について

 

ターミナルバリューは、予測期間以降のフリー・キャッシュ・フローを予測期間終了時点での現在価値に割引計算したものです。

 

 

前述のとおり、将来のフリー・キャッシュ・フローを永久に予測するのは不可能であることから、継続価値の算定は単純化された仮定に基づいて行う必要があります。実務では一般的に永久成長率法を採用することが多いです。

 

永久成長率法とは、予測期間最終年度のフリー・キャッシュ・フローを標準化させ、それが一定の成長率を伴って永続すると仮定する方法です。永久成長率法による継続価値の算定式は以下のようになります。

 

 

TV=FCF(n+1)÷(r-g)×現在価値に割り引くための現価係数

 

 

なお、FCF(n+1)は、予測期間最終年度であるn年目のフリー・キャッシュ・フローを標準化したもの、rは割引率、gは会社の永久成長率を示し、現価係数は1÷(1+r)n(←n乗という意味)として算出されます。

 

 

フリー・キャッシュ・フローの標準化については、主として以下の仮定で行います。

 

 

(1)減価償却費と設備投資(資本的支出)は等しい

 

 

設備投資は減価償却費の範囲で実施するという仮定を置きます。減価償却費と資本的支出が等しいということは、減価償却により費用化された分を補うだけの資本的支出がなされることを意味します。

 

 

これは、継続価値の前提となる長期的な状態においては、拡張的な設備投資が行われないことを前提にしています。

 

 

なお、設備投資したら減価償却費増えるから、一致することなんてありえないだろ?といった疑問はここではいったん忘れてください。継続価値を算定するためには色々なものをシンプルに捉える必要がある次第です。

 

 

(2)運転資本の増減は生じない

 

 

運転資本が増減しないということは、企業がおおむね一定の売上高、利益率、回転率を維持していくことを意味します。永久成長率法では、予測期間最終年度の状況が一定成長率の下永続するという考えを採用することから、こちらはあまり違和感ないような気がします。

 

 

さて、ここで第4回フリー・キャッシュ・フロー算定の復習になりますが、

 

 

フリー・キャッシュ・フロー=NOPLAT (※)+ 減価償却費 - 設備投資 ± 運転資本増減

 

 

でしたね。(1)と(2)を考慮すると、フリー・キャッシュ・フローとNOPLATが一致することとなります。非常にシンプルになりました。

 

 

なお、成長企業は利益を投資に回すことで成長することが多く、フリー・キャッシュ・フローとNOPLATが一致するというのは考えにくいのですが、そこから踏み込むと深掘りが止まらなくなりますので、ここでは割愛したいと思います。

 

4.ターミナルバリュー算定に用いる永久成長率について

 

エイゾン・パートナーズでは、永久成長率を0%とすることが多いです。

 

 

それは、永久成長率法が、予測期間終了時には企業の置かれる環境が安定的であるという前提を取るためです。また、適度な成長率を設定するのは困難であり、恣意性介入の下、算定の簡便性が損なわれるという側面もあります。

 

 

実際に我が国の公表事例において、永久成長率は0%を含む狭い範囲(0%を含む±0.25%など)に設定されていることが多いです。

 

 

なお、0%成長というは低成長の我が国において、直感にも合致しそうですが、一方で、経済成長率や物価上昇率が高い発展途上国等においては直感に合致しないかもしれません。

 

 

ただし、この場合であっても永久成長率を高く設定すべきということにはなりません。あくまで永久成長率には評価対象企業固有の成長性が反映されるべきであって、経済成長率および物価上昇率とは必ずしも一致ないし比例するものではなく、ここがごちゃ混ぜにならないようご留意下さい。

 

5.予測期間において割引率を採用するタイミングについて

 

エイゾン・パートナーズでは、予測期間のフリー・キャッシュ・フローを割り引くタイミングを事業年度の中間点「期央」としています(期央主義)。一方他社例などを見ると、「期末」としている場合(期末主義)も散見されます。

 

 

計算の簡便化のために「期末」とする場合が多いのですが、会社が生み出すフリー・キャッシュ・フローが「期末」一点に生じるという考えになじめず「期央」を採用することとしています。

 

 

なお、「期央」というのはフリー・キャッシュ・フローは年間通じて平均的に発生するという考えによるものです。

 

 

細かく言うとその企業の実態に合わせて月ごと、日ごとに割引計算を行うのが正確なのでしょうけど、計画は年度単位で作成されていますし、細かい計算は実務上現実的ではありません。

 

 

そこで、簡便的な対応を図るため、一定の仮定を設けて割引のタイミングを年間の特定時に設定します。

 

 

もちろん、その企業のフリー・キャッシュ・フローが決まったタイミングに偏っているならその実態に合わせて割引のタイミングを設定する必要がありますが、一般的には年間を通じて平均的に発生するという考えで矛盾はないのではと考えている次第です。

 

 

因みにn年目の現価係数(現在価値に割り引くための計数)は

 

 

【期末主義の場合】

1÷(1+r)n(←n乗という意味)

 

 

【期央主義の場合】

1÷(1+r)(n-1+1/2)(←n-1+1/2乗という意味)

 

 

となります。

 

 

因みに、ターミナルバリューの算定の際の現価係数は、予測期間最終年度の終了時(厳密にはその翌期首ということですが)になりますのでご留意下さい。

 

 

たまに他社レポート内で、予測期間最終年度の翌年度の期末や期央としてるケースが見られますが、これだとターミナルバリュー算定式の導き方と矛盾してしまいます。

 

 

最後に、評価基準日が事業年度の途中である場合ですが、こちらもその実態を割引率適用のタイミングに考慮するべきでしょう。

 

 

例えば、3月決算の企業で評価基準日が12月末に設定されたとします。このとき、評価基準日から期末までの期間は3ヶ月です。そのため、期央主義を採用する場合、計画1年目は、評価基準日から1.5カ月経過した時点に対応する現在価値計数を用いることになります。

 

 

2年目については、1年目終了時点から6ヶ月経過した時点、つまり評価基準日からで9カ月、3年目についてはさらにその12カ月後で21カ月経過した時点に対応する現在価値計数を用います。

 

 

いかがでしたでしょうか。文面では分かりにくい点があるかもしれませんがご容赦ください。

なお、今回の解説のみで足りない場合、当社では

 

 

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では、今回はこの辺りで失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

【目次】

第1回 株価算定総論-何故株価算定書が必要か
第2回 株価算定の手法
第3回 DCF法総論
第4回 将来フリー・キャッシュ・フロー(FCF)の算定
第5回 割引率①-加重平均資本コスト(WACC)と資本構成
第6回 割引率②-株主資本コストと有利子負債コスト
第7回 予測期間とターミナルバリュー(継続価値)、割引率の採用タイミング(今回)
第8回 非事業資産と有利子負債
第9回 被支配者株主持分、新株予約権、種類株式がある場合の留意点

 

 

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