たくさんある!棚卸資産の計算方法

棚卸資産会計基準の解説 | 2014年4月27日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【棚卸資産会計基準の解説】第1回目をお届けいたします。

 

 

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この連載は、棚卸資産会計基準の解説を行うことを目的としたものですが、今回はまず、複数ある「棚卸資産の計算方法」について解説したいと思います。貴社の棚卸資産にふさわしい計算方法はどれでしょうか。それぞれについて見て行きたいと思います。

 

 

 

1.はじめに

 

棚卸資産の会計基準については、平成20年9月に改正された「棚卸資産の評価に関する会計基準(企業会計基準第9号)」(以下、「棚卸資産会計基準」)において、規定されています。

 

 

 

2.棚卸資産の範囲

 

「棚卸資産会計基準」において、棚卸資産は「企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産」とされており、以下の4つが例示されています。

まぁ、棚卸資産は一般的表現で簡単に言うと「在庫」のことですね。

 

(a)  通常の営業過程において販売するために保有する財貨又は用役

 

(b)  販売を目的として現に製造中の財貨又は用役

 

(c)   販売目的の財貨又は用役を生産するために短期間に消費されるべき財貨

 

(d)  販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨

 

このうち、(a)は、商品や製品など一般的に棚卸資産としてイメージされることが多いものが挙げられます。これらは倉庫や店頭に置かれていることが多く、決算時点で所有権があるものが棚卸資産として、財務諸表に計上されます。

 

(b)として挙げられるのは、工場等で製造中のものである仕掛品が代表例となりますが、建設工事における工事中の建物等や、受注生産時の途中のものなど、注文生産や請負作業において、既に支出されている金額である未成工事支出金も対象となります。

 

(c)は生産時に工場等の生産活動において短期間に消費される少額の工具器具等が該当します。

 

また、(d)については、本社や営業諸島で販売活動や一般管理活動で使用され、短期間で消費される文房具類が該当します。

 

これらは財務諸表において貯蔵品として計上されます。しかしながら、これらは一般的に金額的に重要性に乏しいことが多いことから、購入時に費用として計上されることが多くの企業において行われており、棚卸資産として決算時点に計上されるケースは少ないと思われます。ただし、同じく生産活動や販売活動、一般管理活動において使用されるものであっても、長期間に渡り使用されるものや、金額的に重要なものは固定資産として計上されます。

 

なお、(d)は日本の会計基準では棚卸資産とされているものの、IFRS(国際会計基準)においては棚卸資産とされていません。つまり、この部分はIFRSとの範囲の相違が生じるため、日本基準で棚卸資産計上している場合であって、IFRSによる開示を行う際には調整が必要となります。

 

 

 

3.計算方法

 

棚卸資産は

 

数量 × 単価

 

として算定されます。数量は文字通り、何個存在するのかで決まるものであり、要は数を数えれば答えを導き出せるものです。

 

一方、単価はどのように算定すれば良いのでしょうか。購入時期がズレれば、購入単価が異なってくるのが一般的です。棚卸資産として残っているものはいつ購入したもので、どの単価を付ければよいかは思案のしどころです。

 

この単価計算が棚卸資産計上額を算定する上でのポイントとなります。棚卸資産の計算方法と言えばこの単価の算定方法とお考えいただければと思います。

 

この計算方法としては「棚卸資産会計基準」において、下記の方法が規定されています。

 

① 個別法

 

個別法は、棚卸資産の単価を購入(仕入)のたびに一個ずつ区別して記録し、その個々の実際原価によって払い出し単価や期末棚卸資産の単価を算定する方法とされています。

 

各資産の取得価額がそのまま在庫単価とされるため、最も正確な方法といえますが、実際には全ての個別の資産の取得価額を正確に把握しなければならず、その作業は煩雑で実務上困難です。

 

このため、個別法を使用するのは、宝飾品など、個別の棚卸資産が明確に判別可能な棚卸資産に限られます。

 

② 先入先出法

 

先入先出法は、「最も古く取得されたものから順次払出しが行われ、期末棚卸資産は最も新しく取得されたものからなるとみなして期末棚卸資産の単価を算定する方法」とされています。ほとんどの企業では通常、先に取得した棚卸資産を先に払い出すため、実態に即した方法といえます。

 

ただし、棚卸資産の仕入れ価格の変動が激しい場合は、売上原価が最新の仕入価格を反映しにくいという欠点があります。

 

③ 平均原価法

 

平均原価法は「取得した棚卸資産の平均単価を算出し、この平均単価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法」とされています。仕入原料をタンクの中に投入する業種などでは、先に取得した棚卸資産と後から取得した棚卸資産が混ざることになるため、平均原価法では実態に即した方法となります。

 

平均原価法では2つの計算方法があります。

 

・  総平均法

総平均法では一定の期間が経過した後、その期間の平均単価を算出し(仕入総額÷仕入数量)、棚卸資産の単価を計算します。総平均法は計算が複雑になり過ぎないという利点がありますが、期間が終わるまで平均単価が分からず、適時性に欠けるという欠点があります。

 

・  移動平均法

移動平均法では、棚卸資産の受入の都度、平均単価を算出します。移動平均法では適時に棚卸資産の単価を把握できるという利点がありますが、受入の都度、計算を行う必要があるため、事務的に煩雑になります。

 

④ 売価還元法

 

売価還元法は「値入率等の類似性に基づく棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の単価とする方法」とされています。取り扱い品種の極めて多い小売業等の業種における棚卸資産の単価計算に適用されます。原価率は以下のように計算します。

 

(期首繰越商品原価+当期受入原価総額)÷(期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額‐値上取消額)

 

⑤ 最終仕入原価の扱い

 

最終仕入原価法は「最終仕入価格によって期末棚卸資産の単価を算定する方法」です。税務上は認められていますが、会計上は本来認められない方法です。しかしながら、期末における棚卸資産のほとんどが直近に仕入れた品目により構成されている場合や、期末残高が少額の場合等、期間損益計算を歪める可能性がほとんどない場合は認められると、「棚卸資産会計基準」においても定められています。

 

⑥ 後入先出法の扱い

 

かつては棚卸資産の評価方法として「後入先出法」も認められてきました。これは「最も新しく取得されたものから棚卸資産の払出しが行われ、期末資産は最も古く取得されたものからなるとみなして、期末棚卸資産の単価を算定する方法」とされていました。

 

後入先出法は、払出価格に最近の仕入価額を反映させやすいという利点がありましたが、期末棚卸資産の単価が時価と乖離しやすいこと、多くの企業の棚卸資産の払い出しの実態と整合していないこと、また国際会計基準等でも認められていないことから、現在では後入先出法の使用は認められていません。

 

 

 

4.単価計算方法の選択に当たっての留意点

 

「棚卸資産会計基準」において、「棚卸資産の評価方法(単価算定方法)は、事業の種類、棚卸資産の種類、その性質及びその使用方法等を考慮した区分ごとに選択し、継続して適用しなければならない。」

とされており、一度決定した評価方法は継続して使用することが求められます。棚卸資産の払出の実態及び事務管理上の負担を勘案し、各企業において評価方法を決定することが求められます。

 

つまり、手間暇を考慮し、認められたものの中から好きなものを選択してよいが、継続的にその方法を採用しなければならないということですね。

 

実務上では、同業他社の有価証券報告書の棚卸資産の会計方針などを参照にしながら決めて行くケースが多いですが、手間がかからない方法をなるべく採用したいものです。

 

では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

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第2回目:通常の販売目的の棚卸資産の期末評価

第3回目:滞留・処分見込みの棚卸資産の期末評価

第4回目:トレーディング目的で保有する棚卸資産

第5回目:棚卸資産の会計処理のその他の留意点

 

 

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