割引率①-加重平均資本コスト(WACC)と資本構成

株価算定(株価評価)-DCF法の実務 | 2019年5月7日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【株価算定(株価評価)-DCF法の実務】第5回目をお届けいたします。

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1.割引計算を行う必要性

 

前々回記載のとおり、DCF法は将来獲得するフリー・キャッシュ・フローの割引現在価値を算定する方法であり、前回記載の将来フリー・キャッシュ・フローの算定の後、割引計算を行う必要があります。

 

 

なぜ割引計算が必要なのかというと、これも復習ですが、1年後のお金の価値と現在のお金の価値が違うと考えられるためです。

 

 

例えば、今10,000円持っていたとして、利率が1%だとしたら、1年後には10,100円になりますが、これの裏返しとして、1年後の10,100円は割引率が1%のとき、現在価値が10,000円ということとなります。

 

 

このような考え方から、将来キャッシュ・フローを現在価値に置き換える上で割引計算が必要となるのです。

 

 

では割引計算を行う上での割引率は何を用いるべきでしょうか。

 

 

企業においては資金の出し手である資本家の期待収益率(投資をいくら増やしたいかという割合)がそのまま割引率になると考えられます。そこで、DCF法では一般的に加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of  Capital、以下「WACC」)を割引率として用います。

 

2.WACCとは

 

WACCは、株主資本コスト(株主の期待収益率)と負債資本コスト(債権者の期待収益率)を、それぞれの調達額に応じた割合で加重平均して求めた資本コスト(お金の出し手全員の期待収益率)です。

 

 

企業が調達したお金については、株主から調達した分と、債権者から調達した分に色分けし、それぞれ何に使ったかを区分することは困難です。そのため、企業が獲得したフリー・キャッシュ・フローについても、株主の分がいくらで債権者の分がいくらかという区分をすることもできません。

 

 

したがって、フリー・キャッシュ・フローを現在価値に換算する割引率としては、株主資本コストと負債資本コストを、それぞれの調達額に応じた割合で加重平均した値「WACC」を用いる必要があるのです。

 

 

株主資本コストと負債資本コストの具体的内容は次回に委ねますが、ここではWACCの計算方法のみを記載します。

 

 

WACC=Rd×(1-t)×D÷(D+E)+Re×E÷(D+E)

 

 

Rd:負債コスト ⇒ 1.5%

Re:株主資本コスト ⇒ 10%

t:税率 ⇒ 30%

D:有利子負債額 ⇒ 50億円

E:株主資本(時価) ⇒ 100億円

 

 

の場合、

 

 

WACC=1.5%×(1-30%)×50億円÷(50億円+100億円)+10%×100億円÷(50億円+100億円)=7.02%

 

 

と算定されます。

 

3.資本構成(株主資本と有利子負債の割合)について

 

WACCを計算する上では資本構成であるD÷(D+E)やE÷(D+E)の計算も重要となります。

 

 

ただ、上記説明だとEは株主資本(時価)とありますので、話がややこしいです。

 

 

そもそも株主価値の時価を算定するためにWACCを計算する必要があるのに、今度はWACCを計算する上で時価が必要となると、話がループしてしまいます。

 

 

そこで、実務では資本構成はDとEをそれぞれ求めた上で算出するのでなく、D÷(D+E)ないしE÷(D+E)という固まりとして求めてしまいます。なお、WACCは企業の全存続期間を通じて適用される割引率であるため、資本構成は企業が長期的に維持しうる資本構成を反映する必要があります。

 

 

具体的には以下の2パターンのいずれかを用います。

 

 

(1)類似上場企業の平均値を用いる方法

 

 

評価対象企業の資本構成が、長期的に類似企業の平均値に近似していくとの仮定に基づき、上場類似企業の有利子負債、株主資本の時価を用いて算定します。

 

 

上場類似企業は複数社選定することで、より平準化された値になることが想定されますが、その中で異常値(外れ値)は除外する必要があるでしょう。

 

 

類似企業の選定は、所属する業界、展開している事業内容、売上や従業員規模といった複数の要素を考慮して決定しますが、評価対象企業がベンチマークしている企業があると思いますので、それも参考にするとよいです。

 

 

(2)評価対象企業の現在値を用いる方法

 

 

評価対象企業の資本構成が、将来もずっと変わらないという前提のもと、現在の比率をそのまま用いる方法です。なお、前述のとおり、現在の株主資本の時価を求めないとこの方法が採用できないため、厳密な意味ではこの方法を用いることは困難です。

 

 

ただ、有利子負債がゼロであり、将来もずっとゼロ、つまり、株主資本比率が100%という単純な状況の場合にはこの方法を用いることができます。

 

 

そもそも株主資本を簿価で計算できればシンプルなのですが、これから株主となる投資家は時価でしか株を買えないため、その投資利回りは時価をベースに考えます。つまりWACC算定の前提となる資本構成も時価で考えざるを得ないということとなります。

 

 

文面では分かりにくい点があるかもしれませんがご容赦ください。

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では、今回はこの辺りで失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

【目次】

 

第1回 株価算定総論-何故株価算定書が必要か

第2回 株価算定の手法

第3回 DCF法総論

第4回 将来フリー・キャッシュ・フロー(FCF)の算定

第5回 割引率①-加重平均資本コスト(WACC)と資本構成(今回)

第6回 割引率②-株主資本コストと有利子負債コスト

第7回 予測期間とターミナルバリュー(継続価値)、割引率の採用タイミング

第8回 非事業資産と有利子負債

第9回 被支配者株主持分、新株予約権、種類株式がある場合の留意点

 

 

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