被支配者株主持分、新株予約権、種類株式がある場合の留意点

株価算定(株価評価)-DCF法の実務 | 2021年9月9日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【株価算定(株価評価)-DCF法の実務】第9回目をお届けいたします。

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1.新株予約権や種類株式の存在が普通株式の価値算定に影響する

 

一般的に株価は

 

 

企業価値=事業価値+非事業資産

株主価値=企業価値-有利子負債

株価=株主価値÷株式数

 

 

として算定すると考えれば十分です。しかし、前回

 

 

「企業価値は、最終的には全ての資本提供者に対して分配されます。その代表者が普通株主及び金融機関等の有利子負債の提供者なわけであって、被支配者株主持分、新株予約権、種類株式といった、既存の普通株主の支配が及ばない価値が存在する場合があります」

 

 

と記載したように、企業価値を分配する対象に有利子負債以外の項目を考慮しなければならないケースがあります。その場合は、

 

 

株主価値(普通株主分)=企業価値-有利子負債-被支配者株主持分-新株予約権の存在による影響額-種類株主への分配

 

 

として株主価値を算定することとなります。

 

 

今回はこの

 

 

・被支配者株主持分

・新株予約権の存在による影響額

・種類株式への分配

 

 

を検討したいと思います。

 

 

2.被支配株主持分

 

被支配株主持分は、子会社の価値のうち、親会社の支配の及ばない部分です。つまり、この部分については(親会社の)株主にその価値が帰属しないため、株主価値の評価からは差し引く必要があります。

 

 

被支配株主持分については、子会社の株主価値のうち、少数株主に帰属する分として算定します。具体的に、子会社の株主価値(時価)が100で、少数株主の持分割合が20%であれば、20(100×20%)が被支配者株主持分として(親会社の)株主価値からの控除対象となります。

 

 

なお、実務では、子会社の重要性が高くないことが多いため、バリュエーションの際に子会社単体の時価算定は行わず、子会社の簿価純資産を時価とみなし、算定することも考えられます(被支配株主持分=純資産×少数株主の持分割合)。

 

 

3.新株予約権の存在による影響額

 

新株予約権が行使された場合、通常は、時価を下回る金額で株式を交付する必要があります。通常時価で新株を発行したら得られたであろう金額と、新株予約権が行使された場合に得られる金額は後者の方が小さく、この分が普通株主の価値を棄損させることになります。

 

 

株価(時価)が100のとき、株価100で新株を発行したら株価は100のまま保たれますが、新株予約権の行使によって50で新株を発行しなければならない場合、株価は100をキープできなくなってしまいます。直感的な話としては、純度50%の食塩水に純度20%の食塩水を加えたら純度50%をキープできないのと同じような理屈です。

 

 

この影響額を株主価値の算定の際には考慮する必要があります。

 

 

理論的にはオプション評価のモデルで算定した新株予約権の価値を、株主価値から差引く形にするのですが、未上場会社の新株予約権の価値を算定するのが非常に手間であり、また新株予約権の価値を算定するにあたってはその前提として現在の株価が必要となり、株価を算定するために新株予約権の価値を評価しようとしているのに、話がループして複雑です。

 

 

そこで実務では、株主価値を棄損させる新株予約権の影響を反映させる方法として、自己株式法を用いるケースが多いのではと思います。

 

 

【自己株式法について】

 

 

これは、以下の手順のように、株価が権利行使価格を上回っている状態の新株予約権が、現時点で一斉に行使されたものとみなして、1株当たりの価値を算定する方法です(株価が権利行使価格を上回っていなければ新株予約権は行使されません)。

 

 

(1)新株予約権の行使によって払い込まれるキャッシュを新株予約権考慮前の株主価値に加算する。

(2)上記の(1)を、権利行使によって増加した後の株式数で割って1株当たりの価値を算定する。

 

 

この方法によると、

 

 

株主価値(普通株主分)=企業価値-有利子負債-被支配者株主持分-新株予約権の存在による影響額-種類株主への分配

 

 

でなく

 

 

株主価値(普通株主分)=企業価値-有利子負債-被支配者株主持分-新株-種類株主への分配+新株予約権が行使されたと仮定した払込額

 

 

と算定され、代わりに

 

 

株価=株主価値÷株式数(ただし、予約権の行使による増加を考慮)

 

 

として株価が導かれることになります。

 

 

因みにこの方法の場合は、新株予約権の価値の構成要素となる本源的価値(※1)のみが考慮され、時間価値(※2)が考慮されませんので、時間価値の分だけ株価は高く形成されることとなります。

 

 

例えば、発行済新株予約権の全部の権利行使価額が時価を上回っている場合、権利行使はされませんので、新株予約権が株主価値及び株価に与える影響はゼロということになります(つまり株価への棄損効果はゼロ)。

 

 

時間の経過とともに株価上がって、新株予約権による株主価値の棄損効果が将来的に発生する可能性がゼロでないにもかかわらず、その影響は考慮されないという点についてはご留意下さい(当社では、仕方ないと割り切って算定書作っていますが)。

 

 

※1 TIPS

本源的価値というのは、現時点の時価が権利行使価額を上回っている場合にプラスの値になるもので、例えば、今の時価が120に対して権利行使価額が100だった場合、今権利行使をしたら20(120-100)だけ得になる状態を意味しますが(100で新株を取得し120で売却すれば儲かる)、この20がオプションの本源的価値となります。

因みに、権利行使はマストではないため、時価が権利行使価額を下回っている場合は、本源的価値はゼロということになります(マイナスにはなりません)。

 

※2 TIPS

時間価値については、時の経過とともに株価が変動し、そして時間の経過に応じ、株価が高くなればなるほど権利行使による経済的メリットは膨らんでいく、といったことを想定した「時間」に着目した価値を表します。現在本源的価値がゼロであっても、将来の本源的価値はプラスになる可能性があります。このことは、時の経過自体に価値があることを意味します。

因みに、オプションの権利行使期間が長ければ長いほど株価が大きくなる可能性は膨らみますので(下がる可能性も膨らむわけですが、権利行使はマストでないので株価下落の影響は限定的)、時間価値は大きくなります。

 

 

4.種類株式をどう評価するか

 

種類株式は、普通株式と権利の異なる株式です。権利が異なる分だけ普通株式に比べて高くもなるし、安くもなるでしょう。一般的には普通株式へ転換できることが多いため、普通株式と同額か高い評価となるでしょう。

 

 

なお、権利の内容によっては価値を定量化できず、実務上はゼロと評価するものが多々あります。

 

 

例えば、株主総会での「議決権」の価値、継続企業を前提とした場合の「残余財産の分配請求権」の価値、株主総会での「拒否権」の価値、「役員選任権」の価値などが該当します。

 

 

なお種類株式は、会社法に定められた内容の他に、定款や株主間契約によって内容を定めるものもあるので(つまり、色々な種類がある)、一概にどう評価したらよいかを記載することは困難です。

 

 

そのため、個々の種類株式の権利内容を確認し、権利価値を定量化できるもの(つまり種類株主へのキャッシュフローが把握できるもの)をピックアップしていって種類株式の価値を検討していく必要があります。

 

 

なお、実務でよく見るのが「みなし清算条項」付きの種類株式です。「みなし清算条項」とは、M&Aなど会社の所定の事由が発生した場合、残余財産の分配に準じて種類株主にキャッシュフローを優先的に分配する取り決めのことを言います。

 

 

この場合、普通株主より優先して種類株主にキャッシュフローが行きわたるので(そしてその後、普通株主と種類株主で平等にキャッシュフローを分ける)、種類株式の価値は普通株式の価値よりも高くなりそうだというのは直感的にも分かりやすいのではないでしょうか。

 

 

なお、みなし清算条項の価値を見積り場合には、条項が発動する取引の発生確率を何らかの方法で見積り、発動されない場合と発動された場合の価値を発生確率で加重平均します。

 

 

M&Aが発生する確率なんて把握しようがないかもしれませんが、日本公認会計士協会の「種類株式の評価事例」P40の例題には、

 

 

「種類株式価値の算定上、合併等の発生確率を見積もることが必要となる。ここでは、ベンチャー・キャピタル投資のM&A等によるEXIT実績データを勘案して80%の確率で発生するものと仮定し、種類株式の価値を以下のように算出した。」

https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-3-53-2a-20131224.pdf

 

 

と記載があり、こういったものがヒントになるかもしれません。なお、実際80%ということはないかもしれませんが、ネットでヒントになる情報は落ちているかもしれません。あとは会社にM&Aで身売りする可能性について思惑を聞いてみるのも良いかもしれません。

 

 

種類株式については内容が多岐に渡りそれぞれの権利ごとに価値を考えて行く必要がありますが、上記ご案内の「種類株式の評価事例」もご参照いただきながら、検討していただければと思います。

 

 

いかがでしたでしょうか。文面では分かりにくい点があるかもしれませんがご容赦ください。

なお、今回の解説のみで足りない場合、当社では

 

 

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を受け付けています。もしご不明点や当社が具体的に何をやっているかについて突っ込んだお話しを聞きたいという場合、個別にお問い合わせフォーム(http://www.jojo-shien.com/company/contact)よりリクエストをいただければ幸いです。

 

 

では、今回はこの辺りで失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

【目次】

 

第1回 株価算定総論-何故株価算定書が必要か
第2回 株価算定の手法
第3回 DCF法総論
第4回 将来フリー・キャッシュ・フロー(FCF)の算定
第5回 割引率①-加重平均資本コスト(WACC)と資本構成
第6回 割引率②-株主資本コストと有利子負債コスト
第7回 予測期間とターミナルバリュー(継続価値)、割引率の採用タイミング
第8回 非事業資産と有利子負債
第9回 被支配者株主持分、新株予約権、種類株式がある場合の留意点(今回)
第10回 海外企業の株価算定

 

 

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