トレーディング目的で保有する棚卸資産

棚卸資産会計基準の解説 | 2014年7月16日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【棚卸資産会計基準の解説】第4回目をお届けいたします。

 

 

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1.はじめに

 

棚卸資産の大部分は通常の販売目的で保有する棚卸資産に分類されますが、一部の棚卸資産は、市場価格の変動により利益を得ることを目的として所有されます。棚卸資産の評価に関する会計基準(企業会計基準第9号、以下、「棚卸資産会計基準」)においては、そのような目的で保有される棚卸資産を「トレーディング目的で保有する棚卸資産」として分類しています。そして、評価方法についても通常の販売目的で保有する棚卸資産とは区別しています。

 

 

 

2.トレーディング目的で保有する棚卸資産の定義と会計上の考え方

 

①  定義

トレーディング目的で保有する棚卸資産とは、活発な市場が存在することを前提として、棚卸資産の保有者が単に市場価格の変動により利益を得ることを目的として保有する棚卸資産とされています(棚卸資産会計基準3項)。

 

通常の棚卸資産は仕入を行い、製造業等では加工が行われた上で、最終的には販売されることにより、仕入価額と販売価額との差額が利益となります。しかしながら、トレーディング目的で保有する棚卸資産は市場価格の変動による差益を得ることが目的のため、加工や販売のプロセスを得ることがありません。

 

トレーディング目的で保有する棚卸資産の具体例としては、金などの貴金属を売買差益の獲得を目的として保有することが挙げられます。

 

②  会計上の考え方

通常の販売目的で保有する棚卸資産は、いわゆる本業において使用するため、事業遂行上等の制約が存在することが多く、売買・換金を直ちに行うことが難しい場合があります。しかしながら、トレーディングを目的に保有する棚卸資産は、売買・換金に対して事業遂行上の制約がなく、市場価格の変動に応じて容易に売却することが可能と考えられます。

 

このため、形態としては棚卸資産であるとはいえ、保有目的を考慮すると、同じく市場価格の変動により差益を得ることを目的に保有される売買目的有価証券に近い性格を持つものと考えられます。

 

 

 

3.トレーディング目的で保有する棚卸資産の会計処理

 

①  期末時の評価

トレーディング目的で保有する棚卸資産は、市場価格の変動により利益を得ることが目的であるため、棚卸資産の期末時点の市場価格で評価することが、投資者にとって有用であると考えられます。このため、期末時点の貸借対照表価額は市場価格により評価されます(棚卸資産会計基準15項)。

 

②  損益の会計処理

トレーディング目的で保有する棚卸資産は、市場価格の変動にあたる評価差額が企業にとっての投資活動の成果と考えられることから、期末時の評価に伴い生じる評価差額は当期の損益として処理されます(棚卸資産会計基準19項)。その際、損益計算書においては、原則として純額で売上高に表示されます。

 

③  保有目的による分類及び保有目的の変更時の会計処理

トレーディング目的で保有する棚卸資産は、保有目的が売買目的有価証券に近い性格を持ちます。このため、保有目的による分類を行う際の留意点や、保有目的の変更に伴う会計処理は「金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)」や関連する指針における売買目的有価証券の会計処理に準じて行うとされています(棚卸資産会計基準16項・61項)。

 

 

 

4.実務上の留意点

 

①  市場の存在

トレーディング目的で保有する棚卸資産に分類するためには、その棚卸資産について、活発な取引が行われるように整備された、購買市場と販売市場とが区別されていない単一の市場があることが前提条件となります。たとえ企業内部において売買・換金に制約が生じていないとしても、実際に外部への売買・換金を適時に行うことが容易でない棚卸資産は、売買・換金に際して制約が生じているといえ、期末時の評価を市場価格で行うのは適当ではないことになります。

 

②  保有目的の変更

通常の販売目的で保有する棚卸資産を保有中にトレーディング目的で保有する棚卸資産へと保有目的を変更する場合や、又はその逆の場合は、正当な理由が必要となります。保有目的区分の変更が認められる場合としては、企業における資金運用方針の変更又は特定の状況の発生に伴い、保有目的区分の変更を行う場合が挙げられます(金融商品に関する実務指針80項)。その際は、会計方針の変更として、変更の内容、変更を行った正当な理由、影響額等の注記が必要となります。

 

なお、同一品目の棚卸資産について、一部は通常の販売目的で保有する棚卸資産に区分し、その他をトレーディング目的で保有する棚卸資産に区分することも可能であると考えられますが、棚卸資産の取得時に区分することが必要となります。また、売却原価の算定時は両者を通算せず、保有目的区分毎に計算を行うことが求められます(金融商品に関する実務指針79項)。

 

 

 

では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

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第1回目:たくさんある!棚卸資産の計算方法

第2回目:通常の販売目的の棚卸資産の期末評価

第3回目:滞留・処分見込みの棚卸資産の期末評価

第4回目:トレーディング目的で保有する棚卸資産(今回)

第5回目:棚卸資産の会計処理のその他の留意点

 

 

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