新株予約権の会計処理

新株予約権、ストックオプションの実務 | 2017年7月25日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【新株予約権、ストックオプションの実務】第7回目をお届けいたします。

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1.はじめに

ここでは、新株予約権の会計上の処理のうち、主にストック・オプションとして付与される場合の会計処理を中心に扱います。ストック・オプションの会計処理の検討が必要になる場面としては、ストック・オプションの付与時、条件の変更時、権利の確定時の3つがあります。

 

2.ストック・オプション付与時の会計処理

① ストック・オプションを付与した場合

 

企業がストック・オプションを付与した際、そのストック・オプションは株式としては確定していませんが、返済義務のある負債にはあたらないことから、貸借対照表上においては、純資産の部に新株予約権として計上されます(ストック・オプション等に関する会計基準、以下、会計基準4)。

 

また、新株予約権がストック・オプションとして付与される場合、企業は従業員等からのサービスの提供の対価として付与することから、各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他合理的な方法に基づき当期に発生したと見込まれる額を、費用として計上します。

 

【ストック・オプションとして付与する場合の仕訳】

 

 (借)株式報酬費用   ×××    (貸)新株予約権   ×××  

 

 

② 公正な評価単価の算定

 

ストック・オプションは、それ自体を市場価格として観察することは困難であり、このため、将来の予想価値等を基に見積りを行うことが必要となります。会計基準においても、評価単価の算定に当たっては、株式オプションの合理的な科学の見積り等に広く受け入れられている算定技法を利用することが認められており(会計基準6)、ブラック・ショールズ式や二項モデル等の数学的・統計学的方法を用いた算定が広く行われています(詳細は次回)。

 

ブラック・ショールズ式や二項モデル等は、主に市場において取引される株式オプションの価格を算定するために開発されたものであり、従業員等に対して付与されるストック・オプションとは、譲渡の禁止の有無等、その性格を異にすることから、特性や条件等を加味して、調整を行うことが必要になります。

 

なお、失効するストック・オプションの数を見込む際は、それは評価単価ではなく、ストック・オプション数の見積りに反映させます。

 

3.条件変更時の会計処理

ストック・オプションの権利付与後に条件変更が行われた場合、公正な評価単価、ストック・オプション数、費用の合理的な形状期間のいずれかに影響を及ぼすことで、計上額の見直しが必要となる場合があります。

 

条件の見直しにより、見直し後の公正な評価単価が、付与日の公正な評価単価を上回る場合、見直し後に追加的な費用計上を行います。

 

一方、見直し後の公正な評価単価が、見直し前の公正な評価単価を下回る場合は、費用の減額は行わず、付与日における公正な評価単価に基づく費用計上を継続します(会計基準10)。

 

これは、ストック・オプションの条件を従業員等にとってより価値のあるものとすることにより、かえって費用を減額させるというパラドックスを回避するためです。

 

・見直し後の公正な評価単価 > 付与日の公正な評価単価 

   → 追加的な費用計上が必要

・見直し後の公正な評価単価 > 付与日の公正な評価単価

   → 費用計上額の減額は行わない。  

 

次に、条件の見直しが付与数に影響を与える場合、条件変更前から行われてきた費用計上を継続して行うほか、条件変更に伴う変動額を、変更後に、合理的な方法に基づき、残存期間にわたって計上します(会計基準11)。

 

また、条件の見直しが費用の合理的な計上期間を変動させる場合、当該条件変更前の残存期間に計上すると見込んでいた金額を、以後、合理的な方法に基づき、新たな残存期間にわたって計上します(会計基準12)。

 

4.権利日確定後の会計処理

① ストック・オプションが行使された場合

 

ストック・オプションが行使され、これに対して企業が新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本(資本金又は資本剰余金)に振り替えます(ストック・オプション等に関する会計基準8)。

 

その際に自己株式の処分により株式を付与した場合、自己株式の取得原価と新株予約権の帳簿価額及び権利行使に伴う払込金額の合計額との差額は、自己株式処分差額となり、自己株式処分差益の場合はその他資本剰余金、自己株式処分差損の場合はその他資本剰余金から減額する会計処理がとられ、損益には計上されません(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準9、10)。

 

これは、当該取引が資本取引であり、処分差額も株主からの払込資本と同様の経済的実態を有すると考えられるためです。

 

【新株を付与する場合の仕訳】

 

 (借)新株予約権     ×××    (貸)資本金    ×××  

    現預金(払込金額) ×××       資本剰余金  ××× 

 

【自己株式を付与する場合の仕訳】

 

 (借)新株予約権     ×××   (貸)自己株式        ×××  

    現預金(払込金額) ×××      自己株式処分差益(※) ××× 

※ 自己株式の取得価額 > (新株予約権の帳簿価額+払込金額)となる場合は、自己株式処分差損となります。

 

この際、自己株式処分差損の計上により資本剰余金がマイナスとなった場合は、資本剰余金の残高をマイナスとして計上するのではなく、利益剰余金を補てんすることによりゼロとして計上することになります。

 

 

② ストック・オプションが失効した場合

 

新株予約権がその行使期限までに行使されず、失効した場合、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を利益として計上します。この会計処理は当該失効が確定した期に行います(会計基準9)。

 

 (借)新株予約権   ×××   (貸)新株予約権戻入益   ×××  

 

5.まとめ

ストック・オプションの会計処理自体は、それほど複雑なものではありませんが、その際に公正な評価額で計上することが必要となります。このため、公正な評価額の見積りが重要な論点になります。

 

では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

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第1回 新株予約権って何?ストックオプションって何?
第2回 新株予約権を導入する意義(メリット・デメリット)
第3回 新株予約権を発行する際の会社法上の手続きの留意点
第4回 新株予約権を発行する際の金商法上の手続きの留意点
第5回 ストックオプションに関する解説
第6回 新株予約権の税務上の留意点
第7回 新株予約権の会計処理(今回)
第8回 新株予約権の評価方法

 

 

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