新株予約権を発行する際の会社法上の手続きの留意点

新株予約権、ストックオプションの実務 | 2017年2月6日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【新株予約権、ストックオプションの実務】第3回目をお届けいたします。

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1.はじめに

ここでは、新株予約権を発行する際に、会社法において必要な手続について解説します。発行した新株予約権が株式に転換されると、既存株主の利益を侵害する可能性があるため、会社法上はその保護が重視されています。

 

2.新株予約権の募集事項の決定

 新株予約権の発行に当たっては、その内容を決定する必要があります(会社法236条1項)。主な事項は、以下の通りになります。
 

 【新株予約権の内容】

 
・ 当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法
・ 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
・ 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
・ 当該新株予約権を行使することができる期間
・ 当該新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金及び資本準備金に関する事項
・ 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨
・ 当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、次に掲げる事項
・ 当該株式会社が企業再編等をする場合において、当該新株予約権の新株予約権者に当該企業再編等までに定める株式会社の新株予約権を交付することとするときは、その旨及びその条件
・ 新株予約権を行使した新株予約権者に交付する株式の数に1株に満たない端数がある場合において、これを切り捨てるものとするときは、その旨
・ 当該新株予約権に係る新株予約権証券を発行することとするときは、その旨
・ 新株予約権者からの記名式と無記名式との間の転換の請求を、新株予約権の全部または一部についてできないこととするときは、その旨

 

 株式会社は新株予約権を引き受ける者の募集をしようとするときは、上記の内容に加え、以下の募集事項を定める必要があります(会社法238条1項)。主な募集事項は以下の通りです。

 

【新株予約権の募集事項】

 

・ 募集新株予約権の内容及び数
・ 募集新株予約権と引き換えに金銭の払い込みを要しないこととする場合には、その旨
・ 募集新株予約権の払込金額又はその算定方法
・ 募集新株予約権を割り当てる日
・ 募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
・ 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合には、関連する事項
・ 会社が組織変更をする場合に新株予約権者が新株予約権の買取を請求する際の方法につき、別段の定めをするときは、その定め

 

 新株予約権の募集事項の決定は、既存株主の利益に密接にかかわる事項であるため、原則として株主総会の特別決議によるものとされています(会社法238条2項、309条2項)。この際、第三者に対して新株予約権を割り当てるような募集事項を決定できるほか、既存の株主に対して割当てを受ける権利を与えることも可能です(会社法241条)。

 

 ただし、以下のような内容の募集事項を定める場合は、取締役は株主総会において、それを必要とする理由を説明する義務があります(会社法238条3項)。これは、既存株主の利益を侵害する可能性が高いためです。

 

【株主総会において説明が必要となるケース】

 

・ 金銭の払込みを要しないこととすることが、割当てを受けようとする者に特に有利な条件であるとき
・ 払込金額が割当てを受けようとする者に特に有利な条件であるとき

 

しかしながら、募集の度に株主総会を開催するのは、機動的な資金調達の障害となるため、株主総会の特別決議により、取締役会に募集事項の決定を委任することができます(会社法239条1項)。その場合、以下の事項を予め定める必要があります。また、決議の効力は決議の日から1年以内の割当日の募集が対象となります(会社法239条3項)。

 

【募集事項の決定の委任において予め定める必要のある事項】

 

・ その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集新株予約権の内容及び数の上限
・ 金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
・ 払込金額の下限

 

 また、株主総会決議による募集事項の決定と同様、金銭の払込みを要しないこととすることや払込金額の下限が、割当てを受けようとする者に特に有利な条件であるときは、取締役は決議時の株主総会において、その理由を説明する義務があります(会社法239条2項)。

 

3.公開会社における特則

 公開会社(上場会社等)においては、さらに機動的な資金調達を可能とすべく、新株予約権の募集事項を決定するのは、株主総会ではなく、取締役会とされています。この場合、割当日の2週間前までに、株主に対し、当該募集事項を通知する必要があります。ただし、各株主への通知に代えて公告によることも可能であり、また、金融商品取引法に基づき有価証券届出書を提出している場合は、それをもって代えることができます(会社法240条)。
 ただし、公開会社であっても、募集事項が、金銭の払込みを要しないこととすることや払込金額が、割当てを受けようとする者に特に有利な条件であるときは、株主総会の特別決議が必要となります(会社法240条1項)。
 

4.新株予約権の無償割当て

 会社は株主に対して新株予約権を無償で割り当てることも可能です(会社法277条)。この場合、その都度、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)において、以下の事項を決定する必要があります(会社法278条)。

 

【新株予約権無償割当てに関する事項の決定】
 

・ 株主に割り当てる新株予約権の内容及び数又はその算定方法
・ 新株予約権付社債によるものであるときは、当該新株予約権付社債についての社債の種類及び各社債の金額の合計額またはその算定方法
・ その効力を生ずる日
・ 種類株式発行会社である場合には、当該新株予約権無償割当てを受ける株主の有する株式の種類

 

5.ストック・オプションの手続

 ストック・オプションが取締役に対して付与される場合、それは取締役に対する報酬となります。ストック・オプションは金銭ではない報酬に当たるため、定款に規定を設ける場合は定款に規定するか、定款に当該事項を定めない場合は、その具体的な内容について定め、いずれも株主総会において決議する必要があります(会社法361条)。

 

6.自己新株予約権及び新株予約権の消却

 株式と同じく、新株予約権についても、募集事項において予め取得条項を定めることにより、会社は自己で新株予約権を取得することが可能です(会社法273条)。また、自己新株予約権を消却することも可能です(会社法276条)。

 

7.まとめ

会社法上はその趣旨から、株主や債権者の保護を重視しますが、一方で、機動的な資金調達を行うための特則が設けられています。一般的な大企業においては取締役会において募集事項を定めることができる例が大半かと思われますが、その場合も既存株主の利益の保護に十分に留意する必要があります。

 

では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

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第1回 新株予約権って何?ストックオプションって何?
第2回 新株予約権を導入する意義(メリット・デメリット)
第3回 新株予約権を発行する際の会社法上の手続きの留意点(今回)
第4回 新株予約権を発行する際の金商法上の手続きの留意点
第5回 ストックオプションに関する解説
第6回 新株予約権の税務上の留意点
第7回 新株予約権の会計処理
第8回 新株予約権の評価方法

 

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