将来フリー・キャッシュ・フロー(FCF)の算定

株価算定(株価評価)-DCF法の実務 | 2019年3月15日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【株価算定(株価評価)-DCF法の実務】第4回目をお届けいたします。

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1.フリー・キャッシュ・フロー(FCF)とは

 

前回記載のとおり、DCF法は将来獲得するフリー・キャッシュ・フローの割引現在価値を算定する方法であるため、将来フリー・キャッシュ・フローの算定がDCF法のスタートになります。

 

 

フリー・キャッシュ・フローは、事業活動を通じて生み出されるキャッシュ・フローで、資金提供者(株主や金融機関)に分配可能なものをいいます。

 

 

文字通り、その年に稼ぎ出した「自由に使えるお金」ということです。ただ、フリー・キャッシュ・フローから金融機関に返したり、株主に配当したりするので、経営者が好き勝手に自由に使えるお金ということではありません。

 

 

資金の出し手である方々へ割り当てられるお金という意味で、資金の出し手≒会社の持ち主にとって自由に使えるお金ということとなります。

 

 

なお上記のとおり、フリー・キャッシュ・フローは事業活動を通じて生み出されるキャッシュ・フローである必要があります。

 

 

あくまでDCF法により事業価値を算定する際は、事業活動に限ったフリー・キャッシュ・フローを用いる必要があり、例えば事業活動に直接関連ない運用目的の資産からもたらされるキャッシュ・フローは、フリー・キャッシュ・フローに含めません(前回の記事をご参照いただければと思いますが、企業価値の算定上、非事業資産は事業価値と別途把握の上加算します)。

 

2.フリー・キャッシュ・フローの算定方法

 

フリー・キャッシュ・フローは、キャッシュ・フロー計算書上の営業キャッシュ・フローと投資キャッシュ・フローの合計値として算定することができます(ここに事業と関係ないキャッシュ・フローや支払利息といった財務系のキャッシュ・フローが入っている場合は影響を差し引く必要がありますが)。

 

 

ただ、将来フリー・キャッシュ・フローを求めるにあたり、キャッシュ・フロー計算書の計画値を作成していることは稀であり、実務では主に損益計画から算定します。具体的に

 

 

フリー・キャッシュ・フロー=NOPLAT (※)+ 減価償却費 - 設備投資 ± 運転資本増減(増加の場合はマイナス)

 

 

として算定します(それぞれの年度の計画値を使用して算定)。

 

 

※ NOPLAT=EBIT×(1-実効税率)

NOPLAT:(Net Operating Profit Less Adjusted Taxes)⇒税引後営業利益

EBIT:(Earnings Before Interest and Tax)⇒利払前税引前利益

 

 

以下ではNOPLAT、減価償却費、設備投資、運転資本増減をどのように把握するかを記載したいと思います。

 

3.NOPLATの算定

 

用語の定義上、NOPLATは営業利益から営業利益に係る税金(営業利益×実効税率)を差引いて算定すればよいように見られますが、非事業資産と考えられる資産から生じる「毎期」発生するような営業外の収益費用は、NOPLATの計算上加減します。

 

 

NOPLATが税引後営業利益という表現になるのに、実際の計算がEBITを用いる理由がここにあります。

 

 

例えば本業と関係ない(と考えていた)賃貸用不動産については非事業資産と考えていたため、その収益費用(営業外)はNOPLATの計算上(つまりフリー・キャッシュ・フローの計算上)考慮する必要がないように見られますが、これが「毎期継続」して発生するものであれば、そもそも事業か非事業の境目が微妙なはずです。

 

 

その場合は、賃貸不動産の時価を算定し非事業資産に含めるよりも、事業資産から生じる収支としてNOPLATの計算上含めてしまうことが合理的(簡単)であると考えらます(その代わり当該賃貸不動産は非事業資産には含めない)。

 

 

なお、営業利益からNOPLATを算定するプロセスの例は以下をご参照下さい。

 

 

  1年目 2年目 3年目 コメント
営業利益 1,000 1,200 1,300 ①:損益計画より
不動産賃貸収入(営業外収益、費用のうち定常的なもの) 100 100 100 ②:損益計画より
EBIT 1,100 1,300 1,400 ③:①+②
EBITに係る法人税等 (実効税率30%) 330 390 420 ④:①×30%
NOPLAT 770 910 980 ⑤:③-④

 

 

税金の算定については、繰越欠損金がある場合(または繰越欠損金が発生する計画である場合)は、EBITから差引いて計算する必要があります。

 

 

厳密には繰越欠損金はEBITのみに利用するわけでないですが、その他の損益の重要性が低いと考え、簡便的に全額EBITから差引けばよいかと思われます。繰越欠損金を調整した後の値がプラスになった時にはじめて税額が算定されます。

 

 

加えて申し添えると、NOPLATはフリー・キャッシュ・フローを算定するために求めるわけですが、税金は発生した期でなく、通常はその翌期に支払を行います。

 

 

そのため、上記のように当期発生EBITから算定された税金はキャッシュ・フローと紐づかないのではと考えられますが、当期には前期の分の税金を払っており、急成長している企業でない限り、当期支払っている税金(前期末算定分(前期の発生総額-前期の中間納付)と当期の中間納付)は、当期の発生額と重要な差がないとして、当期の発生額をそのまま用いても許容されうるものと考えます。

 

4.減価償却費、設備投資の算定

 

ここでの目的はフリー・キャッシュ・フローを算定することです。NOPLATは上記のように会計上の損益をベースに算定しますが、会計上の損益にはキャッシュ・フローを伴わないものがありますし、逆に会計上の損益に算定されずにキャッシュ・フローを伴うものがあります。

 

 

これらを調整する必要がありますが、その重要なものが減価償却費、設備投資、運転資本の増減(次の項で記載)ということになります。

 

 

減価償却費は会計上の費用ですが、お金は出て行きません。過去に行った設備投資を複数年度で費用化しているにすぎず、お金が出て行ったのは設備投資を行ったタイミングとなります。逆に言うと設備投資のタイミングではお金は出て行っているものの費用にはなっていません。

 

 

このように費用化とお金が出て行くタイミングが違うことから、減価償却費と設備投資の調整が別途必要になるわけです。この設備投資と減価償却費は設備投資計画と損益計画から抽出しますが、実務では設備投資計画が存在しないことが多々あります。

 

 

その場合は、減価償却費の範囲内で設備投資を行っていくものと仮定し(将来においては拡張的な設備投資は行わないということを意味します)、簡便的に減価償却費=設備投資として算定します。

 

 

後日記載する予測期間経過後の期間のターミナルバリューを求める際は、あらゆる計画値が存在しないため、まさにこの考えを採用することとなります。

 

5.運転資本増減の算定

 

結論から申し上げます。運転資本の増加はキャッシュ・フローのマイナス、減少はキャッシュ・フローのプラスとご理解ください。運転資本も様々解釈有りますが、ここでは「売上債権+棚卸資産-仕入債務」として把握いただければと思います。

 

 

予想貸借対照表が作られていない場合は、直近決算時の貸借対照表の各残高及び損益計画を用いて、運転資本の予測値を求めていくこととなります。

 

 

運転資本の増加(減少)がキャッシュ・フローのマイナス(プラス)となるのは、フリー・キャッシュ・フローの算定が損益ベースのNOPLATから始まっていることに起因します。損益とキャッシュ・フローのタイミングは必ずしも一致しないので調整が必要となります。

 

 

例えば、売上が100しかない会社があった場合(話を簡便にするために費用も税金も設備投資も何もないとします)、NOPLATは100と計算されます。仮にこの売上が全額未入金だった場合、フリー・キャッシュ・フローはゼロとなり、NOPLATと差が生じている状況です。

 

 

この例ではこの差の要因が運転資本の増減というわけです。ここでいうと、売上債権が100計上されており、運転資本が100増加している状況です。

 

 

上記のように、収益につながる債権(売上債権、棚卸資産)が増えた場合、利益に比べてキャッシュ・フローはその分少ないことになります。逆に、費用につながる債務(仕入債務)が増えた場合、利益に比べてキャッシュ・フローはその分多いことになります。

 

 

これらのことから運転資本の増加は、NOPLATから計算を始める場合、フリー・キャッシュ・フローのマイナス(減少の場合はプラス)調整項目となるのです。

 

 

なお、予想貸借対照表が作られていない場合、運転資本の予測値を算定したうえでその増減を算定しますが、その予測値は各運転資本の回転期間から求めます。

 

 

例えば、売上債権の回転期間が1ヶ月である場合、予測期間の最終月の売上(月次で予測をたてていない場合は、年間売上÷12として算定)が売上債権残高となります。仕入債務や棚卸資産についても同様に回転期間を考慮し売上や仕入の〇ヶ月分として算定します。

 

 

回転期間は過去の実績平均値や、その会社の入出金サイクルの実態を考慮した期間等を用いますが、実務では将来損益計画と過去の決算書のみが手元にある状態で株価算定を行う場合が多く、過去の実績平均値を算定し、異常でなければその値を用いて予測値を求めることが多いです。

 

 

将来フリー・キャッシュ・フローを算定する上では細々とした点の補足を考慮しなければならない場合がありますが、上記の内容がいわゆる基本線であり、これのみの把握でほとんどのケースで対応できるかと思います。

 

 

いかがでしょうか。今回も文面では分かりにくい点があるかもしれませんがご容赦ください。

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では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

【目次】

 

第1回 株価算定総論-何故株価算定書が必要か

第2回 株価算定の手法

第3回 DCF法総論

第4回 将来フリー・キャッシュ・フロー(FCF)の算定(今回)

第5回 割引率①-加重平均資本コスト(WACC)と資本構成

第6回 割引率②-株主資本コストと有利子負債コスト

第7回 予測期間とターミナルバリュー(継続価値)、割引率の採用タイミング

第8回 非事業資産と有利子負債

第9回 被支配者株主持分、新株予約権、種類株式がある場合の留意点

 

 

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