複数事業主制度と簡便法についての解説(退職給付会計⑥)
退職給付会計の解説 | 2013年7月8日今回は、弊社オリジナルの連載特集【退職給付会計の解説】第6回目をお届けいたします。
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1. 複数事業主による運用・簡便法
今回は中小企業を中心に利用されることが多い複数事業主による運用及び簡便法について解説を行います。なお本項における用語の定義は断りのない限り、「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号、平成24年5月17日、以下、同基準)、及び、「退職給付に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第25号、平成24年5月17日改正、以下、同指針)、に基づきます。
2. 複数事業主による運用
年金資産を運用する際には、資産の総額が大きければ大きいほど分散投資を行うことで、リスク回避を行うことが容易となります。また、中小企業においては年金資産の運用に詳しい人材が不足していることも考えられます。
このため、中小企業を中心に確定給付型企業年金制度を複数の事業主により設立するケースがあります。この場合、年金資産の残高及び期中の運用により生じる損益を各事業主の財務諸表にどのように帰属させるかが論点となります。
同基準では、複数の事業主により設立された確定給付型企業年金制度を採用した場合の会計処理制度について、以下のように定められています。
・ 合理的な基準により自社の負担に属する年金資産等の計算をした上で、確定給付制度の会計処理及び開示を行う。(同基準33項(1))
・ 自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないときには、確定拠出制度に準じ、制度に基づく会社の要拠出額及び当該年金制度全体の直近の積立状況等について注記を行う。(同基準33項(2))
各事業主の負担に属する年金資産等の計算を行う際の合理的な基準として、同指針63項では以下の5つが例示されています。
・ 退職給付債務
・ 年金財政計算における数理債務の額から、年金財政計算における未償却過去勤務債務を控除した額
・ 年金財政計算における数理債務の額
・ 掛金累計額
・ 年金財政計算における資産分割の額
一方、合理的な計算が出来ない場合としては、同指針64項において、事業主ごとに未償却過去勤務債務に係る掛金率や掛金負担割合等の定めがなく、掛金が一律に決められている場合が挙げられています(同指針64項)。
しかしながら、この場合でも親会社等、ある特定の事業主の従業員等に対する給付が制度全体の中で大きな割合を占めている場合や複数事業主間において類似した退職給付制度を有している場合等は、当該事業主については、拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算できるケースにはあたらないとされています。
合理的な計算が出来ない場合に開示する、「直近の積立状況等」について、同指針65項では当該年金制度全体に関する以下の項目を挙げています。
・ 年金資産の額
・ 年金財政計算上の給付債務の額及びその差引額
・ 年金制度全体の掛金等に占める自社の割合
・ これらに関する補足説明
3. 簡便法
従業員数が少ない企業においては、退職給付の数理計算を行う上で必要な基礎データのサンプル数が少ないために計算が困難である場合や、そもそも財務諸表全体に占める退職給付債務の重要性が低い場合があります。
このような企業において通常の退職給付の会計処理を行うのは、負担が大きくなるおそれがあるため、同基準26項においても簡便的な取扱いを行うことが容認されています。
この場合、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行うことなどで退職給付に係る負債及び退職給付費用の計算を行います。退職給付債務の具体的な計算方法については、退職一時金(退職金)分については期末時点の自己都合要支給額、企業年金制度分については直近の年金財政計算における数理債務の額を基に、それぞれ調整計算を行い債務の金額を算定する方法等が、同指針50項において例示されています。
適用可能な企業については、同指針47項において、原則として従業員数300人未満の企業とされていますが、従業員数が300人以上の企業であっても年齢や勤務期間に偏りがあり、原則法による計算により信頼性の高い結果を得ることが困難となるケースにおいても、簡便法を適用することが出来るとされています。
このため、簡便法を利用している場合には、従業員数に留意するとともに、現時点の従業員数が300人未満であっても将来的に従業員数の増加が予想される場合には、原則法の利用も検討することが望ましいと思われます。
なお、連結財務諸表を作成している企業において、親会社等が原則法による会計処理を行っている場合でも、独立した退職給付制度をもつ子会社等があり、その制度の対象となる従業員数が300人未満である場合には、その子会社等の会計処理において簡便法を採用することが可能です。また、複数事業主制度を利用している場合は、各事業主の従業員数ではなく、制度全体の従業員の総数により、簡便法の適用の可否を判断します。
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