退職給付債務の算定(退職給付会計③)

退職給付会計の解説 | 2013年5月30日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【退職給付会計の解説】第3回目をお届けいたします。

 

 

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今回は退職給付債務の計算に当たり必要となる、退職給付見込額の期間帰属額の計算方法、割引率、長期期待運用収益率、その他の基礎率の解説を行います。なお、用語の定義等は断りのない限り、「退職給付に関する会計基準(企業会計基準第26号、平成24年5月17日改正)」(以下、同基準)、「退職給付に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第25号、平成24年5月17日改正)」(以下、同指針)に基づきます。

 

 

1.退職給付見込額の期間帰属額

 

退職給付債務見込額のうち期末までに発生したと認められる額は、改正前の基準では、期間定額基準、支給倍率基準、給与基準、ポイント基準の4つの方法が認められてきましたが、改正後では以下の2つの方法のいずれかで計算することが求められます。

 

① 期間定額基準
期間定額基準では、退職給付見込み額について全勤務期間で除した額を各期の発生額とします(同基準19項)。簡便な計算により算出可能という利点がありますが、年金や退職金は勤務期間が長くなるにつれて増加率が大きくなるのが一般的であるため、実態を反映していないケースが多いという欠点があります。またIFRS(国際会計基準)では期間定額基準の使用が認められていないため、IFRSへの移行を検討している企業は慎重な取り扱いが求められます。

 

② 給付算定式基準
給付算定式基準では、退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積った額を、退職給付見込み額の各期の発生額とします(同基準19項)。給付算定式基準では、計算は複雑になりますが、勤務期間が長くなるにつれて増加率が大きくなるケースが多いと考えられるため、実態を反映した退職給付債務の算定が可能という利点があります。しかしながら、勤務期間の後期における給付算定式に従った給付が、初期よりも著しく高い水準となるときには、当該機関の給付が均等に生じるとみなして補正した給付算定式に従う必要があるとされています(同基準19項)。著しく高い水準の目安は示されていませんが、給付算定式による退職給付費用が勤務期間の後期に大きく増加するケースでは、注意が必要となります。

 

 

2.割引率

 

① 割引率の算定基礎
退職給付債務は、「退職により見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)のうち、期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算する」とされており、従業員の勤務に伴い支払義務は現時点で発生しますが、実際に従業員への支払が行われるのは将来であるため、割引計算を行い、現在価値で計上する必要があります。その際に使用する割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定するとされています(同基準19項)。注釈において割引率の基礎とする安全性の高い債券の利回りとは、期末における国債、政府機関債及び優良社債の利回りとされており、国債の利回りを使用するのが一般的です。最新の国債の利回りは財務省から公表されており、同省のウェブサイトで確かめることができます。

 

② 使用する割引率の期間
従来、割引計算を行うにあたり使用する割引率の期間は、従業員の平均残存勤務期間とすることができましたが、改正後は予想退職期ごとの退職給付見込額のうち期末までに発生したと認められる額を、退職給付の支払見込日までの期間(支払見込期間)を反映した割引率を用いて割り引くとされています(同指針14項)。しかしながら、実務上の負担を考慮し、勤続年数、残存勤務期間、退職給付見込み額等について標準的な数値を用いて加重平均等により合理的な計算ができると認められる場合には、当該合理的な計算方法を用いることができるとされています(同基準16項 注3)。

 

③ 割引率の見直し
割引率等の計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができるとされています(同基準24項 注8)。このうち割引率について、同指針では期首に用いた割引率により算定されている退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定される場合には、重要な影響を及ぼすものとして期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければならないとされています(同指針30項)。実務においては、日本アクチュアリー会・日本年金数理人会が公表している「退職給付会計に係る実務基準」において「期末において割引率の変更を必要としない範囲」が参考情報として公表されており、目安として使用できるものと思われます。

 

 

3.長期期待運用収益率

 

年金資産は一般的に株式や債券等で運用されるため、その期間中に期待される運用収益を期待運用収益として期首に予測計算を行います。期待運用収益は期首の年金資産の額に合理的に記載される収益率(長期期待運用収益率)を乗じて計算されます。なお平成24年の会計基準の改正により、「期待運用収益率」から「長期期待運用収益率」に呼称が変更になっています。合理的に期待される収益率は近年の運用実績によって決定しますが、実際とかけ離れた収益率を使用すると期末に多額の未認識数理債務が発生する可能性が高まるため、慎重な検討が求められます。

 

 

4.その他基礎率

 

① 退職率
退職率とは、在籍する従業員が自己都合や定年等により生存退職する年齢ごとの発生率とされています(同指針26項)。実際の計算の際は個々の企業の過去の実績をもとに計算することになりますが、リストラ等による大量退職は異常値として計算から除かれます。

 

② 死亡率
死亡率とは、従業員の在職中及び退職後における年齢ごとの死亡発生率とされています(同指針27項)。算定の際は事業主の所在国における全人口の生命統計表等を基に算定することになりますが、平均寿命等は男女により差があるため、実際の計算の際は、従業員の男女比率等も考慮して計算することになります。

 

③ 予想昇給率
予想昇給率は、個別企業における給与規定、平均給与の実態分布及び過去の昇給実績等に基づき、合理的に推定して計算するとされています(同指針28項)。現時点で個々の従業員の昇給や昇格の予定がない場合も、将来の昇給や昇格を見込んで計算することになります。

 

 

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【関連記事】

 

第1回目:退職給付会計の概要、退職給付制度の概要について(退職給付会計①)

第2回目:退職給付債務及び年金資産について(退職給付会計②)

第3回目:退職給付債務の算定方法(退職給付見込額の期間帰属額の計算方法、割引率、長期期待運用収益率、その他の基礎率)(退職給付会計③)(今回)

第4回目:数理計算上の差異・過去勤務費用・会計基準変更時差異(退職給付会計④)

第5回目:年金資産の解説(退職給付会計⑤)
第6回目:複数事業主制度と簡便法についての解説(退職給付会計⑥)

第7回目:退職給付の開示について(退職給付会計⑦)

 

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