会計上の見積もりの変更があった場合の取扱い

今回は、弊社オリジナルの連載特集【過年度遡及修正会計基準の解説】第4回目をお届けいたします。

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過年度遡及修正会計基準(会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準)を含む、各種決算業務でお困りの方

過年度遡及修正会計基準(会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準)など、会計処理の方法を手軽に聞きたいという方

この連載は、過年度遡及修正会計基準の解説を行うことを目的としたものですが、今回は、「会計上の見積もり」について、及び「会計上の見積もり」の変更を行った場合にどのように対応しなければならないかを解説したいと思います。

目次

1.はじめに

ここでは会計上の見積りについて解説します。会計上の見積りは「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(企業会計基準第24号)」(以下、「過年度遡及修正会計基準」)において、会計方針の変更、表示方法の変更などと異なる取扱いが行われています。

2.会計上の見積もりの変更

①     会計上の見積もりとは

「過年度遡及修正会計基準」において、

「会計上の見積もり」とは日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書第26号において、「将来事象の結果に依存するために金額が確定できない場合、又は既に発生している事象に関する情報を適時にあるいは経済的に入手できないために金額が確定できない場合において、当該金額の概算額を算出することをいう」とされています。

会社が財務諸表を作成する際には、関連する情報を収集し、計算を行うことになりますが、企業活動では将来の事象を中心に、不確実な面が多数存在します。情報が不足すること又はないことにより生じる不確実性について、出来る限り関連する情報を収集したうえで、財務諸表の作成者である経営者は見積もりを行い、それが会計報告に反映されることになります。

具体的には売上債権に係る貸倒引当金の計算に当たり、得意先の経営状況を基に回収可能性をどのように評価するかや、棚卸資産の期末在庫の翌期以降の販売可能性をどのように見積もるか等が、会計上の見積もりに該当します。

会計上の見積もりは、ある事象をどのように会計に反映させるかという点について、会社側が合理的だと考えられる範囲内で「主観的」に算定を行います。

経営者は、ある事象をどのように会計に反映させるかについて自らの見積方法を表明し、それに対して監査役や会計監査人等が、経営者の主張が妥当であるかを監査において検証することになります。

②     会計上の見積もりの変更

「会計上の見積もりの変更」とは、「新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することをいう。」(遡及適用基準4項(7))とされています。

経営者は財務諸表の作成時点での情報を基に見積もりを行うことになりますが、その際に収集することができなかった情報の入手が、その後に可能となった場合や、前提が変化した場合は、過去の会計上の見積もりが現在では適当ではない場合が生じます。(例えば、滞留売掛金の回収可能性が50%程度と見ていた相手先が、当期に倒産してしまった等の場合、回収可能性は0%に改める必要があるでしょう)

この場合、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することになります。

会計方針や表示方法は原則として、毎期継続して適用することが求められますが、会計上の見積もりは前提が変わった際には新たに見積もりを行うことが求められます。

会計上の見積もりの変更は、当該変更が変更期間のみに影響する場合には、当該変更期間に会計処理を行い、当該変更が将来の期間にも影響する場合には、将来に渡り会計処理を行います。

なお、過去に会計上の見積もりを行った際に、それが最善の見積りにより行われた場合は、過去の財務諸表について遡及して修正することは不要であり、その点は会計方針の変更や表示方法の変更とは異なります。

ただし、会計上の見積もりが過去に誤って行われていた場合には、誤謬による修正として、原則として遡及適用を行うことが求められます。

会計上の見積もりを変更した場合には以下の事項を注記することが求められています。

(1)  会計上の見積もりの変更の内容

(2)  会計上の見積もりの変更が、当期に影響を及ぼす場合は当期への影響額。※

※ 当期への影響がない場合でも将来の期間に影響を及ぼす可能性があり、かつ、その影響額を合理的に見積もることができるときには、当該影響額。ただし、将来への影響額を合理的に見積もることが困難な場合には、その旨。

③     会計方針の変更を会計上の見積もりの変更と区別することが困難な場合

会計方針と会計上の見積もりは密接に関連するものであるため、会計方針と会計上の見積もりのどちらに当たるか区別することが困難とされているものが存在します。

なお、有形固定資産・無形固定資産等の減価償却方法は日本では会計方針に該当しますが、国際的な会計基準においては、会計上の見積もりと同様に処理することとされていることも鑑み(同59項)、会計方針の変更と会計上の見積もりの変更と区別することが困難な場合に含めることとされています(同20項)。

そのような区分が困難な処理方法を変更する場合は、会計方針の変更と会計上の見積もりの変更と区別することが困難な場合として、会計上の見積もりの変更と同様に取り扱い、遡及適用は行いません(同19項)。ただし、会計方針の変更に準じて、以下の事項を注記することが求められます(同11項)。

(1)  会計方針の変更の内容

(2)  会計方針の変更を行った正当な理由

(3)  上記会計上の見積りの変更に関して注記が求められる(2)の事項

3.注記等の実務に備え、日々実施しておくべきポイント

会計上の見積りは経営者の主観的な予測が大きく影響するものであるため、会計監査時にはその根拠について合理的に説明することが求められます。このため、見積りの方法を規程等でルール化して根拠を明確にしていくことが業務効率化のためには有効となります。

【関連記事】

第1回目:過年度遡及修正会計基準の概要

第2回目:会計方針の変更があった場合の取扱い

第3回目:表示方向の変更があった場合の取扱い

第4回目:会計上の見積もりの変更があった場合の取扱い(今回)

第5回目:誤謬があった場合の取扱い

第6回目:過年度遡及修正の開示

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この記事を書いた人

公認会計士・税理士
監査法人トーマツでのIPO支援業務などを経て現在に至る。
企業の役員、アドバイザーに就任し、主に財務面からの経営戦略の立案・実行支援や管理体制の構築支援を中心に各種コンサルティング業務を提供。
バリュエーション業務の実績多数。

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