決算財務報告統制のポイント(J-SOX対応実務③)

内部統制報告制度(J-SOX)対応の実務 | 2012年11月25日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【内部統制報告制度(J-SOX)対応の実務】第6回目をお届けいたします。

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今回は決算財務報告統制のお話です。決算財務報告統制は文字通り、J-SOXのキモとなる部分です。そのため、お伝えしたいことも多く、本文がちょっと長くなりますが、どうかお付き合い願います。

 

 

1. 決算財務報告統制はJ-SOXのキモである

 

 

決算財務報告統制とは、文字通り、決算及び財務報告を行うプロセスにおいて、構築すべき内部統制をいいます。

 

 

様々な業務プロセス(販売・購買等のプロセス)によって処理された取引を、会計システム(総勘定元帳)に取りまとめ、決算整理を行い財務諸表を作成し、さらに連結修正を加え連結財務諸表を作成し、最終的には注記等も含めた財務報告を開示するまでのプロセスにかかる内部統制であり、主に経理部門が担当します。

 

 

詳しくは後述しますが、決算財務報告統制には、全社的な観点から整備・評価するものと、固有の業務プロセスとして整備・評価するものがあります。

 

 

J-SOX実務では、その他の業務プロセスの文書化(販売や購買などの業務記述書やフローチャート等の作成)に担当者が追われてしまうため、一般的に販売や購買などの業務プロセスに係る内部統制に関心が置かれがちですが、『財務報告に係る内部統制を構築・評価する』という、J-SOX本来の趣旨からいえば、むしろ、経理部門で行う決算財務報告統制の有効性を検証することが、虚偽記載や財務報告上の誤りを是正する意味で非常に大きな意味があります(制度趣旨上、決算財務報告統制が「キモ」となると言っても過言ではありません)。

 

 

なぜなら、販売、購買、生産、給与といった、いわゆる上流プロセスの内部統制がいかに完璧であっても、決算財務報告統制に不備がある場合、上流プロセスを財務諸表や開示情報に転換する過程(経理部門の仕事)で、虚偽記載が起きる可能性が大いにありえるからです。

 

 

逆に上流プロセスの内部統制に不備があっても、経理部門で最終チェックを行い、正しい財務報告を行える場合、虚偽記載は回避できることとなります。

 

 

我が国の内部統制報告書の事例において、「開示すべき重要な不備」の要因の大半が、決算財務報告統制の不備によるものとなっていることからも、この統制がJ-SOXの趣旨上、いかに重要であるかうかがえます。

 

 

しかし、我が国の多くの会社にとって決算財務報告プロセスは、販売や購買のような上流プロセスと異なり、経理財務の特殊な技能を持つ経理人員の長年の経験で、職人芸的に行われていることが多く、特に昨今の複雑な新会計基準や特殊な取引の発生等のため、マニュアルや社内規程等の整備が遅れているのが現状です。

 

 

上場会社の場合、J-SOXの要請により、決算財務報告統制の整備が進みましたが、これから上場を目指す会社や、新たに重要な子会社を加えた会社の場合、決算財務報告統制の整備に別途手間を掛ける必要があるかもしれません。

 

 

なお、決算財務報告統制の整備の際の留意点は大きく下記となります。

 

 

  • ➣ 業務の可視化 ≒ 属人性の排除

(マニュアルや規程等を整備し、担当者の穴が空いた際でも別の担当者が決算財務報告の業務ができるようにする)

 

  • ➣  チェック体制の整備

(誤りがあった場合に適時・適切に修正できるように、チェック体制を構築する)

 

 

2. 決算財務報告統制の整備・評価 について

 

 

決算財務報告統制の整備・評価は全社的な観点から整備・評価するものと、固有の業務プロセスとして整備・評価するものがあると前述しましたが、それぞれについて述べたいと思います。

 

 

なお、全社的な観点というのは連結財務諸表を構成する企業集団全部において横断的に整備・評価するものであり、固有の業務プロセスというのは、財務報告への影響が大きい固有の項目であって、当該事項にのみ着眼し、個別に整備・評価するものであるとご理解ください。

 

 

【全社的な観点から整備・評価するもの】

 

 

「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(以下「実施基準」といいます)」Ⅱ.2.(2)では、全社的な観点から整備・評価するものとして

 

① 総勘定元帳から財務諸表を作成する手続

② 連結修正、報告書の結合及び組替など連結財務諸表作成のための仕訳とその内容を記録する手続

③ 財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続

 

を例示しています。主に決算財務報告を行う際の全社方針や、体制作りについての話となりますが、これらの手続において、財務報告に虚偽記載が発生するリスクを低減するために、以下のような統制が考えられます。

 

 

➣  当期の決算において採用する会計方針、その留意事項を記載した決算手順等を作成し、各事業拠点に配付、説明し、周知徹底を図る。

 

➣ 連結決算のために必要となる子会社等の財務情報等を収集するために必要となる連結パッケージの様式を設計している。

 

➣ 上記の連結パッケージの様式について、親会社提出の期日を含め、記載上の留意事項を子会社等に配付し、説明している。

 

➣ 各事業拠点から収集した連結パッケージについて、親会社の責任者による査閲(対予算比較、対前期比較等)を実施し、異常な増減等があれば原因を調査士、必要に応じ経営者に説明している。

 

➣ 有価証券報告書の開示に際し、経営者による査閲を実施し、財務諸表等に異常な増減等があれば適切に対応している。

 

➣ 法令等の改正により新たに適用される開示項目について、早期に検討し、必要に応じて法律の専門家や監査人等と協議している。

 

 

なお、上記は例示であり、実務上の整備・評価を行う上では、監査法人やコンサルタントが保有するツールを利用することが有効でしょう。

 

 

【固有の業務プロセスとして整備・評価するもの】

 

 

実施基準では、財務報告への影響を勘案して重要性の大きいプロセスについては、個別に評価対象にすることとしています。

 

 

決算・財務報告プロセスにおいても、財務報告への影響の大きさから、固有の業務プロセスとして評価を行うものとして「見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス(たとえば引当金、固定資産の減損、繰延税金資産・負債等の見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定に係る業務プロセス)」が挙げられています。

 

 

最近の我が国の会計基準は複雑化しているため、会計基準を正確に理解し、適切に適用できるかどうかが財務報告の信頼性に大きく影響します。

 

 

しかしながら、いわゆる会計ビッグバン以降に導入された税効果会計、退職給付会計、金融商品会計、減損会計、企業結合会計等は、いずれも資産負債の評価にあたって経営者の判断と見積りによるところが非常に大きくなっているため、複雑な会計基準自体というよりも、その会計基準の適用に際して経営者の行う判断と見積りの妥当性が、大きく財務報告の信頼性に影響を及ぼす結果となっています。

 

 

たとえば、繰延税金資産の回収可能性、減損会計におけるグルーピング、将来キャッシュ・フローの見積り、企業買収におけるのれんや無形資産の評価等は、いずれも経営者の判断と見積りが大きく介在する領域です。

 

 

それらの判断や見積りが変化すれば、企業の経営成績や財政状態に直接的に大きな影響を与えるため、財務報告の信頼性を担保する内部統制を構築するうえでは、客観的な判断と見積りを行い(=恣意性を排除する)、その過程と結果を適切に開示できるような仕組みを構築することが重要となるのです。

 

 

なお、見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目の算定は、

 

① 社内の方針等の確認

② 各仕訳の数字を確定するために必要な情報の収集

③ 予測の手法の確立

④ 見積りの計算式の決定

⑤ 計算式に従った金額計算

 

といったプロセスを経て行われます。

 

 

そのため、ここでの内部統制は、当該各プロセス(①~⑤)における虚偽記載のリスクを低減させるものである必要があり、

 

➣ 社内の方針に準拠していることを担保する統制(例えば社内の方針、マニュアルに準拠して算定していることを確認するため、準拠性チェックリストを用いる等)。

 

➣ 金額を計算する際に使用する情報が信頼できるものであることを担保する統制(例えば情報源が外部資料に準拠していたり、社内の適正な機関で承認されたものである等)。

 

➣ 金額計算のモデル(算式)が妥当であることを担保する統制(例えば、他社で使用するモデルとの比較、前年度比較等)。

 

➣ 金額計算が正確であることを担保する統制(例えばダブルチェック、上司の承認、前年度比較等) といったものが考えられるでしょう。

 

 

【評価の実施時期】

 

 

ところで、決算財務報告統制の運用状況の評価については、早期の段階で行うことが効率的・効果的です。

 

 

実施基準Ⅲ.4(2)①.ロ.bにも「決算・財務報告プロセスに係る内部統制の運用状況の評価については、当該期において適切な決算・財務報告プロセスが確保されるよう、仮に不備があるとすれば早期に是正が図られるべきであり、また、財務諸表監査における内部統制の評価プロセスとも重なりあう部分が多いと考えられることから、期末日までに内部統制に関する重要な変更があった場合には適切な追加手続が実施されることを前提に、前年度の運用状況をベースに、早期に実施されることが効率的・効果的である。」と記載されています。

 

 

決算・財務報告は四半期を含め年に4回しかありません(本決算は1回のみ)。つまり、不備を発見する機会もほとんどないため、不備の是正期間も考慮して、評価の時期はできるだけ早めに設定することが望ましいでしょう(第2四半期、ないし第3四半期決算を利用して仮評価を行い、本決算で仮評価のフォローアップを行うのが望ましい手順です)。

 

 

では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

第1回 内部統制報告制度(J-SOX)って何?

第2回 そもそも“内部統制”って何?

第3回 我が国の法律で求められている“内部統制”

第4回 J-SOX全体像(J-SOX対応実務①)

第5回 全社的内部統制のポイント(J-SOX対応実務②)

第6回 決算財務報告統制のポイント(J-SOX対応実務③)(今回)

第7回 業務処理統制のポイント(J-SOX対応実務④)

第8回 RCM(リスクコントロールマトリクス)の作成方法(J-SOX対応実務⑤)

第9回 整備状況の評価方法(J-SOX対応実務⑥)

第10回 コンサルタントやツールの活用法(J-SOX対応実務⑦)

第11回 監査法人が行う内部統制監査への対応(J-SOX対応実務⑧)

第12回 運用状況の評価方法(J-SOX対応実務⑨)

第13回 サンプル抽出についての留意点(J-SOX対応実務⑩)

第14回 開示すべき重要な不備について(J-SOX対応実務⑪)

第15回 不備金額の集計方法(J-SOX対応実務⑫)

第16回 経営者による内部統制報告書の作成方法(J-SOX対応実務⑬)

 

 

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