年金資産の解説(退職給付会計⑤)

退職給付会計の解説 | 2013年6月23日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【退職給付会計の解説】第5回目をお届けいたします。

 

 

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1.年金資産

 

今回は退職給付の実際の支払に充当する年金資産について解説を行います。なお本項における用語の定義は断りのない限り、「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号、平成24年5月17日、以下、同基準)、及び、「退職給付に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第25号、平成24年5月17日改正、以下、同指針)、に基づきます。

 

 

2.年金資産の要件

 

同基準においては、年金資産を「特定の退職給付制度のために、その制度について企業と従業員との契約(退職金規程等)等に基づき積み立てられた、次のすべてを満たす特定の資産をいう。」としており、本シリーズ第2回目で解説した通り、以下の要件が定められています。

 

(a) 退職給付以外に使用できないこと
(b) 事業主及び事業主の債権者から法的に分離されていること
(c) 積立超過分を除き、事業主への返還、事業主からの解約・目的外の払出し等、事業主の受給者等に対する詐害的行為が禁止されていること。
(d) 資産を事業主の資産と交換できないこと。

 

このため、年金資産はその他の資産とは区分して計上されることになります。また、退職給付の支払に充当されることが制度的に担保されている資産であるため、財務諸表に開示する際は、退職給付債務と相殺して純額で表示することになります。

 

 

3.会計処理の概要

 

退職給付会計上は期首の年金資産の額に合理的に期待される収益率(長期期待運用収益率)を乗じた金額が期待運用収益となります。年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異は数理計算上の差異となり、退職給付債務にかかる数理計算上の差異と同様に、多くの場合は複数年度に渡り償却する会計処理が行われます。また、退職給付にかかる数理計算上の差異と年金資産にかかる数理計算上の差異の償却方法及び年数は統一する必要があります。

 

 

4.年金資産の運用方法

 

年金資産は株式や債券などへの投資により運用が行われ、その運用成績次第で増減が生じます。確定給付型企業年金の運用形態としては、本シリーズ第1回目で解説した通り、企業独自に厚生年金に上乗せして給付を行うことを目的として設立する厚生年金基金、労使が合意した年金規約に基づき年金資産の管理・運用を行う規約型企業年金、母体企業とは別の法人格を持った基金を設立した上で、基金において年金資金を管理・運用を行う基金型企業年金の3通りがあります。

 

規約型起業年金制度においては給付や運用などの実際の業務は生命保険会社や信託銀行(年金資産受託機関)に委託されます。厚生年金基金制度や基金型企業年金制度でも、給付・運用を年金資産受託機関に委託するケースが多くあります。また、基金型企業年金のでは企業が単独で基金を設立する場合、連結グループで設立する場合、同業者間で共同で設立する場合の主に3通りの設立方法があります。

 

 

5.近年の動向

 

年金資産は国内外の株式・公社債などにより運用されますが、バブル崩壊後の株式市場の長期低迷等により、近年は年金資産の運用成績も低迷することが多く、実際の運用成果が期待運用収益を下回るケースが多くなっています。この場合、退職給付の支払に備えた積立額が不足することになるため、企業により費用の追加計上が必要となります。

 

このため、高リスク資産を運用することで運用成績の改善を図る企業や年金基金が一部において見られますが、年金資産の運用に関して運用の失敗、又はAIJ事件などに見られるように委託先の不祥事により多額の運用損失が発生するケースが最近相次いでいます。この場合は企業が運用損失の補填を迫られ、追加で多額の損失が発生することになります。

 

これらの問題に対応し、金融庁や日本公認会計士協会において年金資産の運用に関連した監査の厳格化や開示の拡充などが検討され、会計士協会より「年金資産に対する監査手続に関する研究報告」(監査・保証実務委員会研究報告第26号、平成25年3月29日)が公表されました。

 

従来は年金資産について、企業は決算時に年金資産受託機関から残高証明書を入手し、それを基に年金資産の金額を算定することが主流であり、公認会計士による監査においても、確認状の入手が監査手続において重視されてきました。しかしながら、今後は運用の委託先や運用している方法などについて、リスクの評価を行うことが求められる方向となっています。

 

この場合、運用方法や運用責任者を企業内において明確に定めていることや、委託先の状況を適切に把握し、定期的にリスクの評価を行っていることが、監査時にも重要なポイントとして扱われます。このため、企業においても今後は年金資産の運用について透明化・明確化が求められるとともに、運用方法自体についても、より慎重に検討する必要があります。

 

また、運用成績が悪化する年金基金が増加していることに対応し、政府等で年金基金の制度自体の見直しが議論されています。今後の議論の動向次第では退職給付の会計制度自体に影響を与える可能性もあるため、動きを注意深く見守る必要があります。

 

 

【関連記事】

 

第1回目:退職給付会計の概要、退職給付制度の概要について(退職給付会計①)

第2回目:退職給付債務及び年金資産について(退職給付会計②)

第3回目:退職給付債務の算定方法(退職給付見込額の期間帰属額の計算方法、割引率、長期期待運用収益率、その他の基礎率)(退職給付会計③)

第4回目:数理計算上の差異・過去勤務費用・会計基準変更時差異(退職給付会計④)

第5回目:年金資産の解説(退職給付会計⑤)(今回)
第6回目:複数事業主制度と簡便法についての解説(退職給付会計⑥)

第7回目:退職給付の開示について(退職給付会計⑦)

 

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