数理計算上の差異・過去勤務費用・会計基準変更時差異(退職給付会計④)

退職給付会計の解説 | 2013年6月14日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【退職給付会計の解説】第4回目をお届けいたします。

 

 

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1.数理計算上の差異・過去勤務費用・会計基準変更時差異

 

今回は退職給付会計において生じる数理計算上の差異・過去勤務費用・会計基準変更時差異について解説を行います。なお、用語の定義等は断りのない限り、「退職給付に関する会計基準(企業会計基準第26号、平成24年5月17日改正)」(以下、同基準)、「退職給付に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第25号、平成24年5月17日改正)」(以下、同指針)に基づきます。

 

 

2.数理計算上の差異

 

① その内容

 

数理計算上の差異とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異とされています(同基準11項)。

 

【数理計算上の発生要因】
・年金資産の実際の運用成果(期末実績)-年金資産の期待運用収益(期首予測)
・退職給付債務の実績(期末実績)-数理計算に用いた見積数値(期首予測)

 

年金資産の期待運用収益及び退職給付債務の数理計算に用いた見積数値は各会計期間の期首に予測されたものである一方で、年金資産の実際の運用成果及び退職給付債務の実績は期末の実績を基に計算されることから、数理計算上の差異は期首の予測と期末の実績との差額となります。このため、景気の状況により年金資産の運用成績が当初の予測と大きく乖離した場合や、従業員の離職や採用、昇給の状況について予定外の変動が大きかった場合には、数理計算上の差異は多く発生する傾向にあります。

 

数理計算上の差異のうち、当期純利益を構成する項目として費用処理(費用の減額処理又は費用を超過して減額した場合の利益処理を含む。)されていないものを「未認識数理計算上の差異」としています(同基準11項)。

 

② 会計処理の方法

 

過去勤務費用は、原則として各年度の発生額について発生年度に費用処理する方法又は平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分する方法のいずれかにより処理が行われます(同指針35項)。費用処理方法としては定額法が原則ですが、定率法の選択も認められています。

 

平均残存勤務期間とは、在籍する従業員が貸借対照表日から退職するまでの平均勤務期間であり、原則として退職率と死亡率を加味した年金数理計算上の脱退残存表を用いて算定するとされていますが、標準的な退職年齢から従業員の平均年齢を控除して算定することも簡便的な方法として認められています(同指針37項)。我が国においては一定の年齢が定年とされ、大多数の従業員が定年まで勤務する会社も多いことから、簡便的な方法を用いて計算を行う会社が多い傾向にあります。

 

また、未認識数理計算上の差異は連結財務諸表では負債及びその他の包括利益として貸借対照表に計上されますが、個別財務諸表の貸借対照表には計上されないこととされており、連結と個別で会計処理が異なるので注意が必要です。

 

③ 平成24年改正による変更点

 

平成24年の改正前の退職給付会計の各基準では、未認識数理計算上の差異は貸借対照表上に計上しないこととされていましたが、既に発生している差異を計上しないことは実態と乖離した情報を提供することにつながるとの指摘が従来からなされており、またIFRS等との乖離も生じていました。しかしながら、未認識数理計算上の差異の取扱いを変更することは会社の配当可能利益に与える影響等も大きいことから、改正後の基準では、IFRSとの整合性が重視される連結財務諸表の開示においては貸借対照表上で負債及びその他の包括利益として計上することとされ、個別財務諸表上の適用の可否については結論を先送りしています。

 

また、負債及びその他の包括利益としての計上が必要となる時期は原則として平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表とされており(同基準34項)、3月決算の会社の場合は平成26年3月31日時点の財務諸表から適用されることになります。

 

 

3.過去勤務費用

 

① その内容

 

過去勤務費用とは、退職給付水準の改定等に起因して発生した退職給付債務の増加または減少部分とされており(同基準12項)、退職金規程等の改定に伴い退職給付水準が変更された結果生じます。なお、ベースアップなどの給与水準の変動による影響は、過去勤務費用には該当しません(同指針41項)。このうち、当期純利益を構成する項目として費用処理(費用の減額処理又は費用を超過して減額した場合の利益処理を含む。)されていないものを「未認識過去勤務費用」としています(同基準12項)。

 

② 会計処理の方法

 

過去勤務費用は、原則として数理計算上の差異と同じく、各年度の発生額について発生年度に費用処理する方法又は平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分する方法のいずれかにより処理が行われます(同指針35項)。これは、退職金規程等の改定は将来に渡り従業員の勤労意欲に影響を与えるものと考えられるためです。

 

また、未認識過去勤務費用は、未認識数理計算上の差異と同じく、連結財務諸表では負債及びその他の包括利益として貸借対照表に計上されますが、個別財務諸表の貸借対照表には計上されないこととされています。

 

④ 平成24年改正による変更点

 

改正前は「過去勤務債務」呼ばれていましたが、改正後は「過去勤務費用」に名称が変更されています。また、未認識数理計算上の差異と同じく、改正前は未認識部分について貸借対照表に計上されなかった過去勤務費用が、改正後は連結財務諸表においては負債として計上されることになりました。

 

 

4.会計基準変更時差異

 

① その内容

 

会計基準時変更時差異とは、退職給付会計基準の適用初年度の期首における、「退職給付会計基準による未積立退職給付債務」の金額と、「従来の会計基準により計上された退職給付引当金等」の金額との差額とされています(「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)」42項、会計制度委員会報告第13号、平成11年9月14日)。

 

② 会計処理の方法

 

会計基準時変更時差異は、適用初年度に一括して費用処理する方法、又は15年以内の一定の年数にわたり定額法により費用処理を行う方法のいずれかにより会計処理を行います(上記指針43項)。会計基準変更時差異は平成12年4月より導入された「退職給付に係る会計基準」の導入時に生じた差異であることから、今後、15年以内の費用処理期間が終了することに伴い、消滅することになります。

 

 

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