退職給付債務及び年金資産について(退職給付会計②)

退職給付会計の解説 | 2013年5月2日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【退職給付会計の解説】第2回目をお届けいたします。

 

 

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今回は退職給付会計の基礎となる退職給付債務及び年金資産について解説します。なお本項における用語の定義は断りのない限り、「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号、平成24年5月17日)に基づきます。

 

 

1. 退職給付債務

 

 

「退職給付に関する会計基準」では、退職給付債務は「退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたもの」としています。
企業にとって、従業員が退職した際の一時金(退職金)の支払いや年金の給付が実際に生じるのは、従業員の退職後となりますが、会計上は従業員が会社に対して労働サービスを提供したことにより、その対価として退職給付の支払義務が企業に発生すると考えます。このため、実際の退職給付債務の支払いに備え、従業員の勤務期間に応じて会計期間毎に退職給付債務を認識します。
退職給付債務の大まかな計算の手順は、「退職給付に関する会計基準」において以下のように定められています。

 

① 退職時に見込まれる退職給付の総額を計算する。
「退職給付に関する会計基準」において、退職時に見込まれる退職給付の額は退職時までに「合理的に見込まれる退職給付の変動要因を考慮して見積る」と示されています。このため、従業員の現在の給与水準や職階のみによって退職給付の額を決定するのでなく、将来の昇給や昇格も見込んで計算を行います。また、計算の際には、退職(途中退職を含む)や死亡による影響も確率に織り込んで考慮します。

 

② 各期の発生額を見積もる。
各会計期間においては、従業員にかかる退職給付見込額のうち、当期に発生したと認められる金額を勤務費用として認識します。このため、合理的な基準により発生見込額を従業員の勤務期間に按分することになります。いったん採用した按分方法は原則として継続して適用しなければならず、この際に用いる按分方法として、従来の会計基準では以下の4つの方法が認められていました。

 

(a) 期間定額基準
(b) 支給倍率基準
(c) 給与基準
(d) ポイント基準

 

しかし、平成24年度の基準改定により平成26年4月1日以降に始まる会計年度においては、以下の2つの方法のみが認められることになりました。
(a) 期間定額基準
(b) 給付算定式基準
このため、その他の方法で按分計算を行っている会社は計算方法を変更する必要があります。

 

③ 現在価値に割り引く
退職給付の実際の支払時期は将来となるため、将来の費用を認識する場合は、将来の支払金額を現在価値に割り引く必要があります。その際に用いる割引率は国債や優良社債などの利回りを参考にして設定します。時間が経過するに従い、退職給付債務の残高も増加します。時の経過により発生する退職給付債務の増加額は各会計期間の期首の退職給付債務の残高に割引率を乗じて計算され、利息費用として認識されます。

 

④ 数理計算上の差異
各会計年度の期首時点においては、期首の退職給付債務残高に対する利息費用と、当期に発生すると予測される勤務費用の合計額が当期に増加する退職給付債務の金額と予測され、期中に費用として計上されます。しかし、従業員の勤務状況や退職、割引率の変動等により、実際に期末に認識すべき退職給付債務の金額は期首時点での予測金額と異なる金額となるのが一般的です。退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実際との差異及び見積数値の変更等により発生した差異は「数理計算上の差異」として計上され、多くの場合は複数年度に渡り会計処理が行われます。数理計算上の差異の会計処理方法は、平成24年度の会計基準の改正により大幅に変更されています。

 

⑤ 過去勤務費用
企業における退職給付制度の改正等により、将来発生する退職給付の金額が変動することがあります。特に最近は、景気低迷に伴い退職給付制度の見直しが相次いでいます。退職給付水準の改定等に起因して発生した退職給付債務の増加又は減少部分は「過去勤務費用」とされ、数理計算上の差異とは区別して会計処理が行われます。

 

 

2. 年金資産

 

 

多くの企業においては退職一時金や年金の支払いに備え、年金資産を積み立てています。年金資産は通常、信託銀行や生命保険会社など外部の機関投資家に運用を委託するのが一般的です。年金資産は従業員への一時金や年金の支払い以外に取り崩すことはできないこととされ、これにより従業員の年金の受給が確実に行われることを担保しています。「退職給付に関する会計基準」においては、年金資産を「特定の退職給付制度のために、その制度について企業と従業員との契約(退職金規程等)等に基づき積み立てられた、次のすべてを満たす特定の試算をいう。」としており、以下の要件が定められています。

 

(a) 退職給付以外に使用できないこと
(b) 事業主及び事業主の債権者から法的に分離されていること
(c) 積立超過分を除き、事業主への返還、事業主からの解約・目的外の払出し等、事業主の受給者等に対する詐害的行為が禁止されていること。
(d) 資産を事業主の資産と交換できないこと。

 

年金資産は株式や債権などへの投資により運用が行われ、その運用成績次第で増減が生じます。退職給付会計上は期首の年金資産の額に合理的に期待される収益率(長期期待運用収益率)を乗じた金額が期待運用収益となります。年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異は数理計算上の差異となり、退職給付債務にかかる数理計算上の差異と同様に、多くの場合は複数年度に渡り会計処理が行われます。
バブル崩壊後の株式市場の長期低迷等により、近年は年金資産の運用成績も低迷ことが多く、退職給付の支払に備えた積立額が不足し、企業によって費用の追加計上が発生するケースも増加しています。

 

また、最近、年金資産の運用に関して、資産運用の失敗又は運用の委託先の不祥事により多額の運用損失が発生するケースも相次いでいます。この場合、企業が運用損失の補填を迫られ、追加で多額の損失が発生することになります。このため、金融庁や会計士協会において年金資産の運用に関連した監査の厳格化や開示の拡充などが検討されています。企業においても今後は年金資産の運用について透明化が求められるとともに、運用方法自体についても、より慎重に検討を行うことが求められます。

 

 

【関連記事】

 

第1回目:退職給付会計の概要、退職給付制度の概要について(退職給付会計①)

第2回目:退職給付債務及び年金資産について(退職給付会計②)(今回)

第3回目:退職給付債務の算定方法(退職給付見込額の期間帰属額の計算方法、割引率、長期期待運用収益率、その他の基礎率)(退職給付会計③)
第4回目:数理計算上の差異・過去勤務費用・会計基準変更時差異(退職給付会計④)

第5回目:年金資産の解説(退職給付会計⑤)
第6回目:複数事業主制度と簡便法についての解説(退職給付会計⑥)

第7回目:退職給付の開示について(退職給付会計⑦)

 

 

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