通常の販売目的の棚卸資産の期末評価

棚卸資産会計基準の解説 | 2014年5月18日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【棚卸資産会計基準の解説】第2回目をお届けいたします。

 

 

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1.はじめに

 

ここでは、棚卸資産の期末の評価方法について解説します。棚卸資産はその保有目的により、通常の販売目的で保有する棚卸資産と、トレーディング目的で保有する棚卸資産の2つに分かれますが、ここでは、通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価方法について取り上げます。

 

 

 

2.棚卸資産の評価方法

 

①  期中の取得原価による評価

通常の販売目的で保有する棚卸資産は期中においては取得原価により評価し、貸借対照表価額とします。取得原価の算出方法は、第1回で取り上げた通り、個別法、先入先出法、平均原価法、売価還元法、最終仕入原価法の中から、各企業が事業の種類、棚卸資産の種類、その性質及びその使用方法等を考慮した区分ごとに選択し、継続して適用することが原則となります。

 

② 期末における棚卸資産の評価方法

企業は営利活動を行うという前提であるため、企業が通常の販売目的で保有する棚卸資産についても、取得原価以上の価額で販売し、利益を上げることが前提となります。このため、しかしながら、市況の変化等が要因で、棚卸資産の販売価額等が当初の想定を下回り、利益を上げることが出来なくなるケースが生じることがありえます。

 

この場合、棚卸資産の販売等によっても、当初の取得価額以上の収入を回収することができないため、企業には損失が生じることになります。棚卸資産の販売により将来において損失が生じる見込みである以上、期末時にその棚卸資産がまだ販売されていないとしても、会計上の保守主義の原則により、収益性の低下が生じているものとして、早期に損失を認識することが求められます。

 

③ 正味売却価額による評価

保守主義の原則に従い、期末時においては、棚卸資産の取得価額と正味売却価額を比較し、正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とすることが定められています(「棚卸資産の評価に関する会計基準7項(企業会計基準第9号)、以下、「棚卸資産会計基準」)。そして、取得原価と正味売却価額の差額は当期の費用として処理されます。

この場合の正味売却価額は以下のように算出されます。

 

正味売却価額=売価(売却市場の時価)-見積追加製造原価-見積販売直接経費

 

収益性の低下の有無に係る判断及び簿価切下げは原則として個別品目ごとに行うこととされています(棚卸資産会計基準12項)。しかしながら、実務上の利便性も考慮し、複数の棚卸資産を一括りとした単位で行うことが適切と判断されるときには、継続としてその方法を適用することが可能です。

 

④ 売却市場において市場価格が観察できない場合

売却市場において市場価格が合理的に算定できないときは、合理的に算定された価格を売価とすることが認められます(棚卸資産会計基準8項)。これには、期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や、契約により取り決められた一定の売価を用いる場合を含むとされています。この方法は市場が十分に発達しておらず、合理的な市場価格を求めることができない棚卸資産や、相対取引が一般的な棚卸資産において適用できるものと考えられます。

 

⑤ 再調達原価による評価

期末における棚卸資産の評価では、原則として正味売却価額を使用することが原則です。しかしながら、製造業における原材料は、販売のため加工が行われるため、見積追加製造原価を正確に算出することが困難であるケースが考えられます。

 

このため、製造業における原材料の評価においては、当該品目を再調達する際に要する価額である再調達原価が、正味売却価額が再調達原価に歩調を合わせて動くと想定されるときには、正味売却価額を代替するものとして再調達原価を用いることが出来るとされています(棚卸資産会計基準10項)。

 

⑥ 企業が複数の売却市場に参加し得る場合

企業が複数の売却市場に参加し得る場合は、実際に売却できると見込まれる売価を用いて評価を行います(棚卸資産会計基準11項)。該当するケースとしては、消費者への直接販売と代理店経由の間接販売、正規販売とアウトレット、特定の顧客への契約による販売等、同一品目で異なる売価が付けられているケースが挙げられます(棚卸資産会計基準51項)。また、棚卸資産をそれぞれの市場向けに区分できないときには、それぞれの市場の販売比率に基づいた加重平均売価等を用いることができます。

 

 

 

3.会計処理の方法

 

①  洗替え法と切放し法

資産の評価替えを行う際は、前期に計上した簿価切下額の戻入れに関して、当期にいったん戻入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)の2つの方法があります。いずれも損益に与える影響は同じであるため、棚卸資産の評価においては、棚卸資産の種類ごとに選択適用することができます(棚卸資産会計基準14項)。また、売価の下落要因を区分把握できる場合には、要因ごとに選択適用することも可能です。ただし、一旦採用した方法は原則として、継続して適用することが求められます。

 

② 損益計算書における表示区分

収益性の低下による簿価切下額は、販売活動に関連して発生するものであることから、売上原価とすることが原則となります(棚卸資産会計基準17項)。しかしながら、棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められる簿価切下額については、製造原価として処理します。また、簿価切下額は注記又は売上原価等の内訳項目として、その金額を開示することが求められます(棚卸資産会計基準18項)。

 

従来、棚卸資産会計基準の適用開始前は、簿価切下額を営業外費用や特別損失として処理することも認められていましたが、現在では認められていません。しかしながら、収益性の低下に基づく簿価切下額が、重要な事業部門の廃止や災害等の要因で発生する場合は、特別損失に計上します。この場合、洗替え法を適用していたとしても、当該簿価切下額の戻入れを行うことはできません。

 

では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

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第1回目:たくさんある!棚卸資産の計算方法

第2回目:通常の販売目的の棚卸資産の期末評価(今回)

第3回目:滞留・処分見込みの棚卸資産の期末評価

第4回目:トレーディング目的で保有する棚卸資産

第5回目:棚卸資産の会計処理のその他の留意点

 

 

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